ショート動画の「切り抜き戦略」で約10億再生に到達。ショートドラマアプリの「BUMP」が語る85万DLまでの成長の裏側。ヒットするショートコンテンツを作るコツ。
85万ダウンロードを突破した「BUMP」さんを取材しました。
「BUMP」について教えてください。
水谷:
1話3分のショートドラマ配信アプリです。アプリは累計85万ダウンロード、切り抜きを含めた「総再生数」は約10億回に到達しています。
Z世代の女性ユーザーが多く、移動時間よりは夜の時間帯に使われていて。寝る前などにゴロゴロしながら「マンガ感覚」で視聴されていますね。
収益モデルは、BUMPに掲載した作品から生まれた収益を、クリエイターと分け合うレベニューシェアモデルになっています。
作品あたりの収益のベースラインも伸びてきていて、制作費の回収が見える作品も増えている状況です。
「BUMP」はどのように生まれたのでしょうか?
澤村:
テレビドラマの面白さのままに、1話の尺を短くできたら面白いのではないかと2021年に「ショートドラマのアプリ」の着想を得ました。
最初はコンテンツもプロダクトも、何もないところからはじめたので、作品に関わる人たちを集めるために、毎日DMでお願いをしていましたね。
当然NGやスルーばかりで、門前払いも当たり前。社内のメンバー間でも「本当にこれいけるのだろうか」という空気が漂っていたのを覚えています。
ただ、あるときに「実績のある監督」がOKしてくれて。その瞬間から風向きが一気に変わっていくことになります。
何もなかった僕らに、その監督がOKを出してくれたのは、僕らが「BUMPで実現したい仕組みや世界観」に共感してくれたからでした。
そして、最初に「監督」が決まったことで、出演者やスタッフの方を集められるようになっていきました。
やっぱり「監督」って影響力があります。芸能事務所さんも「この監督なら出ます」となるし、カメラマンさんも「この監督なら付き合うよ」となる。監督を押さえられるかって超重要でした。
こうして、制作に関わる人を地道に集めてショートドラマ作品をつくって、並行してアプリも開発して、2022年12月に「BUMP」を公開しました。
アプリの公開後には「何をどう進めていったのか」をぜひ教えてください。
澤村:
BUMPを公開して、最初に行わなければならなかったのは仮説検証でした。具体的には「ショートドラマに課金してくれるか」を検証することです。
3話まで無料で視聴できて、それ以降はコインに課金して視聴するというモデルが成立するかは、「課金してもらえるのか」にかかっています。
そこで、リリース時の6作品は「恋愛・アクション・不倫」とジャンルも意図的にバラバラにつくって、相性の良いジャンルを探っていましたね。
結果としては『今日も浮つく、あなたは燃える』という不倫をテーマにした作品がヒットして、ショートドラマの課金モデルが「制作費の何倍もの収益を生み出せること」を証明できました。
また、不倫といった背徳感を感じるような「インモラル系」のジャンルは、ショートドラマとの相性がめちゃくちゃ良いこともわかりました。
ここで、ショートドラマに「若いユーザーが課金してくれる」という手応えが得られたため、さらに新作をつくっていくことになります。
どうして「インモラル系の作品」はショートドラマとの相性がよかったのでしょうか?
澤村:
カップルや夫婦って、もう見た瞬間に「関係性」がわかりやすいんですよ。数十秒で人間関係を描けるってことは、ショートドラマ向きなんです。
例えば「理想の夫婦生活」を30秒で伝えてから、夫のセリフで「これ不倫してるんじゃないの?」と匂わせれば、感情の落差が生まれます。
また「カップルや夫婦」は感情の揺さぶりをつくりやすいです。なぜなら、誰もが「出会いや別れ」で感情を揺さぶられた経験があるから。
だからこそ「本当に不倫しているの?」というシーンを1話の引きにすれば、次の話に引き込まれてしまうわけです。
そこから「BUMP」はどのように急成長していったのでしょうか。
澤村:
BUMPの成長につながったのは「切り抜き動画」でした。印象的なシーンの「切り抜き」をSNSにアップすることで、今ではコンスタントに「月間で数千万再生」されることにつながっています。
新作ドラマを出したら、SNSに「切り抜き動画」を上げる。すると切り抜きを起点に「BUMP」に流入する。このサイクルが生まれたんです。
同じような「バズっている切り抜き」でも、BUMPのアプリのダウンロードまでつながる「CVRの高い動画」と「CVRの低い動画」があって。
分析すると、CVRが高い動画の特徴は「ストーリーの続きが気になるもの」でした。視聴後に「アプリをDLする動機」が生まれるからですよね。
そのため、脚本段階から「各話にどれだけバズるシーンが作れるか」も意識して、1つの作品から「多数の切り抜き」が生まれるようにしています。
SNSに投稿した「切り抜き動画」を伸ばすための工夫やポイントはありますか?
水谷:
ショート動画は「最初の1秒」で視聴するか離脱するかが決まるので、テロップを動画の上下に入れて「最初の1秒の情報量」を増やしていますね。
テロップで「シーンの状況」を伝えれば、それが「視覚的なアイキャッチ」になって引きが生まれて、視聴を継続してもらいやすくなります。
最初の1秒での、セリフで伝えられる「聴覚的な情報量」って多くないので、テロップをつかって「視覚的な情報量」を増やしているんです。
このテロップには「コメントを引き出す」という役割もあって。テロップのワードセンスは、動画のコメント数や視聴回数にも影響します。
あと、媒体によって動画も出し分けています。なぜなら、同じショート動画でもSNSによって「ウケるネタ」が違うからです。
例えば、インスタでは「共感を呼ぶあるあるネタ」がウケるので、テロップにも共感度の高そうな文言を入れます。
切り抜きの再生数は「TikTokが突出して多い」とかではなくて、本当に動画によってバラバラです。つまり、どの媒体も重要だということです。
ショートドラマの「ヒット率」を高めるポイントがあればぜひ解説してください。
澤村:
ヒット作品の共通点は「最終話まで見てくれる人が多いこと」なんですよ。分解すると「1話の視聴者の母数」と「継続視聴率の高さ」が大切です。
まず「1話の視聴者の母数」を増やすには、先ほどの「切り抜き動画」の視聴数をどれだけ増やすかがポイントになります。
また「継続視聴率の高さ」は、簡単にいうと「次話もみたい!」と思ってもらえるのかですが、すると大事になるのは「1話の冒頭」です。
ショートドラマって「最初の1話」の離脱が圧倒的に多くて。そこで次を見るかが決まります。低いと50%以下だし、高いと90%が視聴してくれます。
2話以降は、徐々に視聴者が減っていきます。なので、1話の出来栄えによっても「最終話の視聴者数」が全く変わってくるんです。
視聴を継続してもらうには、感情が揺さぶられるフックになるシーンを冒頭30秒に持ってくることと、その作品が「最終的にどこに向かっていく話なのか?」を1話目で伝えられないといけません。
例えば、「桃太郎」のショートドラマを作るなら、「なぜ鬼を倒したいのか」という動機を、1話の中で視聴者に提示しないといけないんですね。
だから、「昔々…」からはじまると遅くて、めっちゃ人のいい爺さん婆さんが鬼に襲われて惨殺されてしまう、という展開のほうが引きは生まれます。
これって「鬼滅の刃」の1話が正にそうなんですよ。鬼を倒す動機をつくる。主人公を応援したくなる理由をつくる。次への引きで終わる。
丁寧に伏線を貼って、じっくり説明していくよりは、「短時間で一発で感情移入できる」って状況をつくらなきゃいけないんですね。
作品づくりにおいて「ヒットの打率」を上げるための工夫などはありますか?
澤村:
例えば、社内のスタッフが、脚本を読んで「継続視聴してもらえそうか」を判断する「フックレベルシート」というものがあって。
これは、脚本から「継続して視聴されそうか」を評価して、それが一定の基準を超えたら制作に入る仕組みになっています。
この評価を参考にしながら、課金箇所を調整することで、同じ視聴者数でも収益性が2倍に改善する、ということも起こっていますね。
同じように「バズレベルシート」というのもあって、脚本の中に「バズりそうな切り抜きが作れそうか」を、評価する仕組みもあります。
最終的にはプロデューサーが判断しますが、評価が高い脚本の中から「GO」という意思決定をするようにはしていますね。
BUMPを見ていると「会話や展開のテンポ」を重視していると感じます。セリフを早回しで読む、会話のテンポを上げる、などは意識していますか…?
澤村:
ここは大事なのですが難しくもあって。作り手としては「間を捨てる」ってチープに見えてしまう側面もあるし、業界習慣に逆行する手法なんですよ。
役者さんとしても「間で芝居する」みたいなところがある。だから、現場で監督に「間を捨ててテンポを上げたい」とリクエストすると、「え、それ本気で言ってるの?」となかなか受け入れてもらえない瞬間もあって。
でも、視聴者の動きをデータで見ると「テンポは大事だ」とわかっていて。そこはみんな「作品を最後まで見てもらいたい」って気持ちは同じなので、丁寧に説明してなるべく納得いただけるようにしていますね。
脚本でも、映画やドラマ感覚でじっくり説明を入れると、ショートドラマだとめっちゃ長く感じるんですよ。なので、セリフも短く削ったりします。
あと、テレビでよくある「引きの画」って説明的なものが多いですが、ショートドラマだと、視聴者的にはなくても成立するので「待たされている感覚」になりやすいです。
それで、BUMPでは「寄りの画」が多くなるようにしていて、僕も現場では「寄り」で撮ってもらうように、お願いしたりもしていますね。
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【取材協力】
emole株式会社:https://emole.co.jp/
BUMP:https://lp.bump.studio/
emole株式会社 澤村直道さん、水谷誠也さん、広報の浦田さん
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