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売上が「ほぼ0円」のピンチから800万人が利用するまでに成長。モバイルオーダーの「ダイニー」が語る、最速で仮説を検証する「開発をしてはいけない」検証のコツ。

モバイルオーダーPOSの「ダイニー」さんを取材しました。

株式会社 dinii 代表取締役 山田 真央 さん

「ダイニー」について教えてください。

山田:
飲食店向けの「モバイルオーダーPOS」です。2019年に現在のサービスの形でリリースしていて、累計ユーザー数は800万人を突破しています。

消費者側の体験としては、飲食店の卓上にあるQRコードを読み取ることで、自分のスマホからメニューを注文できるようになります。

飲食店側の体験としては、売上を上げるツールとして、CRM(例:クーポンの配信)や様々な分析ができるようになっています。

モバイルオーダーやPOSがやりたいというよりは、僕らが解決したい課題は「飲食店の売上をどう上げていくか」なんです。

ダイニーの立ち上げ期はひたすら「飛び込み営業」をしていた。

山田:
もともとは、2017年のランチの事前注文アプリからはじまって、そこから3回くらいピボットしながら、2019年に現在のダイニーの形になりました。

最初の店舗の開拓は、六本木からスタートしました。Airbnbを使って六本木に泊まり込んで、ひたすら朝から晩まで飛び込み営業を繰り返しました。

数百件は飛び込みましたね。でも飲食店の意思決定者って現場にあまりいないので、振り返るとあまり効率的ではなかったなと思います。

六本木にしたのは、最もITリテラシーが高いエリアだと思ったからですね。日本でもUberEatsは六本木エリアなどから始まっています。

例えば、六本木ヒルズで働く人は、給料が高くて食事に行く時間を惜しむ人が多い。だからUberEatsを使う。なので僕らも同じ作戦をとりました。

ただ初期は、飲食店さんのモバイルオーダーへの視線は冷ややかで、「なぜ注文を取る仕事をお客さんにやらせるの?」という声が多かったです。

提案にいくと「そんなのは飲食店じゃないよ。わかってないね。」とお叱りを受けることもありました。僕らは売上が上がって喜ばれるのではと思っていたので、これは予想外な反応でした。

それでも、「お客さんをオンライン会員化してCRMできるので、お店の売上が上がりますよ」と説得して、少しずつ導入店舗が増えていきました。

しかし、2020年にコロナ禍になり、その瞬間に閉店やコスト削減により、これまでの売上が全部吹き飛んでほぼ0になってしまいました。

コロナ禍でモバイルオーダーが「急成長した理由」

山田:
しかし、コロナ禍での市場の変化は、ターニングポイントにもなりました。2020年の後半から、モバイルオーダーが注目されはじめたんです。

コロナ禍の到来によって、飲食店側が藁をもすがる状態になっていました。何でもいいから何とかするものが欲しい。

ただ、お客さんはあまり来ないのでコストを削減したい。飲食店のコストは基本は「家賃と原価と人件費」なのですが、家賃と原価は削減しにくい。

では「人件費を削減しよう」と思ったときに、その手段としてあったのは、回転寿司にあるようなタブレット注文システムだったんです。

でも、タブレットを導入するのはお金がかかる。そこで、スマホでやれば初期費用を抑えられるよねと、モバイルオーダーが注目されました。

お客さんに注文してもらえるから人件費も下げられる。お客さんからしても非接触で注文できる。めちゃめちゃ注目を浴びたんです。それで、2020年の後半から本当に急成長していったんですね。

また、フードデリバリーやテイクアウトが広がり、飲食をスマホで注文するサービスが一般化して、人々がそれに慣れたのも大きかったと思います。

なので、ダイニーが頑張ったというよりは、世界が大きく変わって求められるようになった。常識が変わって成長したという感じでした。

仮説検証のポイント:「ギリギリまで開発はせずに最小単位で検証していく」

山田:
僕らがずっと大事にしているのは、明らかにしたいことを「必要最小限の開発で明らかにする」というカルチャーです。

あらゆる検証は、基本全部アナログでやっていて。開発しないことを正としていますね。開発した時点でもう負債になるからです。

例えば、ダイニーの前につくった「ランチの事前注文アプリ」では、消費者側と飲食店側という、2つのプロダクトをつくらないといけませんでした。

このときに最初に検証すべきは「消費者側のニーズ」です。お客さんが本当に注文してくれるのか、どんな機能があると適切なのかを検証したい。

一方で、飲食店側の課題は「注文に対して適切にオペレーションできるか」なので、極論回れば何でもいいわけです。

なので、消費者側にリソースをかけて最速で体験を磨き上げて、飲食店側は手動で回して検証しよう、という判断をしました。

具体的には、ユーザーがアプリで注文したら、それが僕らのSlackに届くようにして、それを確認したら飲食店側に電話で伝えていました。

例えば、「12時に1名でからあげ定食入りました。田中さん男性の方です。」と飲食店さんに注文を伝える。開発しないでアナログに対応する。

なぜこの優先順位が大切かというと、ニーズもないのに裏側の仕組みをつくり込むのって無駄だからですよね。なので、消費者の体験をひたすら磨き、飲食店側は手動でなんとかする。これを徹底しました。

僕らは今でも、明らかにしたいことを明らかにするまでは「なるべく開発しない」、これが一番いい仮説検証の方法だと考えています。

ダイニーで言うと「アンケート機能」というものがあって、これは消費者がアンケートに回答すると、飲食店側に成績表が出る機能です。

この機能をつくろうとしたときに、そもそも「消費者がアンケートに回答してくれるか?」という検証が大事ですよね。裏側の成績表のデザインとか、どうしたら売上が上がるかの分析って二の次なわけです。

なので、消費者が「フィードバックをしてくれるか?」を検証するために、開発はせずにGoogleフォームを手打ちして送信しました。

検証結果として「アンケートにみんな回答してくれるぞ」とわかってから、飲食店側の裏側の仕組みをつくりこんでいきました。

成功した施策①:店員に投げ銭ができる「推しエール」

山田:
ダイニー初期に「推しエール」という、店員さんにギフトを贈れる、投げ銭のような機能を入れたところ、これが想像以上に成功しました。

ポイントは「名称」だったと思います。日本ではチップ文化が定着していません。その一方で「お年玉」「お手当」「お心づけ」といった、それに似た概念は存在していますよね。

そこで、表現を「チップ」というよりは、推し活やライブ配信アプリを参考に「好きな人を応援する」という意味を込めて、「推しエール」という表現にしました。多い方だと月に10万円以上贈られている店員さんもいます。

エールが飛ぶとキッチン側にも伝わるため、店員さんがその卓に来て「ありがとうございます」と言うまでが一連の流れになっています。

成功した施策②:ユーザーの観察から機能を改善していく

山田:
意識しているのは、毎日のようにダイニーの加盟店でご飯を食べるのですが、それも「ダイニーを知らない人」と行くようにしていることです。

これはユーザーの体験を「現場で観察するため」です。例えば「これって、使いづらくない?」みたいに知らない体で聞きながら、ダイニーを使っている手元を観察しながら、本音を聞くということを繰り返しています。

例えば発見だったこととしては、元々ダイニーのデータを見ると「カートに商品を入れた状態」で何分も経過している人が一定数いたんですよ。

これ不思議だったのですが現場を見ると、カートに入れたまま「注文した」と誤解している人が多かったんです。酔っ払っている人も多いので。

そこで、カートに入れたときに「注文完了していませんよ」とわかりやすくする演出を入れたところ、かなり改善効果がありました。

ドリンクをおかわりするときに、メニューのトップから探す人が多かったので、おかわりコーナーを上部に表示するようにもしました。

これも、現場で観察すると「面倒な作業が毎回発生しているな」と気づいて入れたところ、めちゃめちゃ当たった機能です。

数百万件のデータ分析でわかった『飲食店の「再来店」につながる要素』

山田:
ダイニーのアンケート機能では、お店の評価が「通信簿」のように項目別にわかるのですが、それが数百万件のデータベースになっていて。

そこから飲食店の「再来店」につながる要素がわかってきています。面白いのは「ポジティブとネガティブに効く指標」と「ネガティブにだけ効く指標」があるということです。

例えば、料理には「味と価格」の2つの要素があって。味は「ポジティブとネガティブに効く指標」です。料理において味は最重要な指標で、シンプルに良かったら再来店するし、悪かったら再来店しません。

でも、価格は「ネガティブにだけ効く指標」です。安さだけでは再来店する理由にはならないけど、高すぎてコスパが悪いと再来店しません。

料理の提供時間は「ネガティブにだけ効く指標」です。早いと嬉しいのですが、早くても別に再来店しない。でも、遅いと再来店しなくなる。

清潔感も同様です。当然きれいなほうが嬉しい。でも、別にきれいだから再来店するわけじゃない。でも、汚いと絶対に再来店しません。

接客については、①入店時の接客、②注文時の対応、③商品提供時の対応、この3つしかファクターがない。これ以外は再来店にあまり効かない。

接客は「料理の味」にも相関しています。接客で「この食材をこだわって使っています」と言われると、脳みそではより美味しく感じますよね。

接客はスタッフにより差も出るので、この人がシフトインしているときは「接客が良いから料理の評価も高い」みたいなことも起こります。

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【取材協力】
株式会社dinii:https://about.dinii.jp/
ダイニー(dinii):https://www.dinii.jp/
山田 真央 さん( @maochil

【告知】ダイニーさんでは、プロダクトマネージャーやUI/UXデザイナーなど採用強化中。toBとtoC両方のプロダクトに関われるところが面白いポイントとのこと。ご興味あれば下記サイトからご覧ください。

※ 以降は+αの事例をnote購読者向けにまとめています。ダイニーの重要指標とそれを改善できた施策、アンケートの回答率を高めたABテスト、事業成長につながった2つの意思決定など、ご興味あればご覧ください。

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