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9割に否定された「ファッションレンタル」のサービスが7年で黒字化、売上28億円に。会員70万人「エアークローゼット」の裏側と「新しい習慣」を生むサブスクのつくり方

ファッションレンタルの「airCloset」さんを取材しました。

株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 CEO 天沼 聰さん

airCloset(エアークローゼット)について教えてください。

天沼:
月額制のファッションレンタルサービスです。35万点以上のアイテムから、プロのスタイリストが選んだお洋服を、1回に3着お届けします。

2015年にスタートして、会員数は70万人(無料会員含む)、これまでに400万を超えるコーディネートを、ひとつひとつお届けしています。

エアークローゼットはどんな経緯で生まれましたか?

天沼:
もともとは、3人で創業して「ライフスタイルを豊かにするサービスをつくりたい」と、エアークローゼットの事業アイディアを考えました。

当時は、ファッション業界の知人さえひとりもおらず、業界のことを何もわからなかったので、知り合いの伝手を辿って、話を聞いていきました。

返ってきたのは、「普段着なんてレンタルしない」「買うのが当たり前だから借りないよ」「ブランドも協力しないので洋服を仕入れられない」

といったご意見が9割でした。これらの意見は全て正しいと思いましたし、なぜ「成立しないか」を真剣に考えるキッカケになりました。

でも、やってみないとわからないなと。なぜなら、僕らのメンバーで、今のテクノロジーで、という条件での検証は、まだ誰も試していないからです。

事前登録のプレスリリースを打つと、想定していた以上に反響があって、3ヶ月で2.5万人くらいの事前登録が集まりました。

もし5%が登録してくれたとしても、1,000人以上は利用してくれる。何もない中でポテンシャルが見えたことは、精神の安定につながりました。

資金調達に向けて「これだけ反響がある」という実績ができて、投資家の方にも「きっといけますよ」と、根拠を持って伝えられました。

なので、世の中に早く「自分たちのアイディア」を伝えて、共感してくれる方がどれだけいるか確認することは、早めにやって良かったと思います。

現在の会員数は70万人。増加速度も上がっています。どのように会員数が伸びているのでしょう?

天沼:
やっぱり、エアークローゼットって「行動変容」が必要なサービスなので、体験された「お客様のクチコミ」がすごく重要なんですよ。

そうなると、会員様の数が伸びるほど「お客様の声」も増えていくので、そこの増加速度が上がることで、成長率も伸びているのだと思います。

体験としておもしろいのは、「ファッションの固定観念の幅」が広がって、自分で選ぶなら「着なかったお洋服」を着るようになることです。

例えば、「赤いスカートなんて自分では着なかったけど、エアクロで着たらみんなに褒められたから、これからは赤いスカートを履こう」ということがよく起こっていて。

そして、誰かに褒められたら、みなさん帰ってから「ブランドのタグ」を、高確率でチェックするんですよ。すると、心にもそのブランドが残るので、いつかお店に買いに行ったりもします。

なので、これはブランド様にとっては、知っていただくキッカケになるし、お客様にとってはアイテムの幅が広がる、そしてサービスのクチコミにもつながる、とても良い状態です。

この褒められる体験は「ひとつの成功体験」として捉えていて、その状態をつくるためにいろんな角度から、サービスの品質を改善しています。

ファッションって「自己表現」のひとつなので、周りとコミュニケーションが生まれたり、関係性につながるところも、大事なポイントです。

なるほど。レンタルだと「人に言うのが恥ずかしい」という感覚のユーザーもいそうですが、そこはどうなのかも気になります。

天沼:
そこはその通りなんです。「行動変容を起こすサービス」をつくるときに、最も難しいポイントって、人が抱く印象などの「固定観念との戦い」かもしれないなと思います。

やっぱり、レンタルには「安かろう」的な固定観念もあって。マイカーなら言えるけどレンタカーは恥ずかしい、みたいな感覚もあったりする。

なので「これエアクロで借りたんだ」と言いたくない人が増えると、ブランディングとしても市場としても、圧縮されてしまうんです。

なので、初期からずっと、レンタルは時間効率も高くて、賢くファッションを楽しめる新しい手段なんですよ、とポジティブな発信を続けてきていて、そうした価値観がすこしずつ浸透してきていると感じています。

サービスを長く継続してもらうため「大事にしている指標」というのはありますか?

天沼:
最初の「3ヶ月の継続率」はとくに大事ですね。これはネットのサブスク系サービスであれば、間違いなく鉄板の指標になると思います。

エアクロの場合は、習慣化までの期間もありますし、何回かはコーディネートが届かないと、「本当の価値」が伝わりにくいのだと思います。

人間の習慣化は「3週間や3ヶ月」と言われていて、何回かはサイクルを体験しないと、習慣化まで辿り着かないのだろうなと。

実際に3ヶ月を超えた方は、すごくやめづらくなりますね。

うまくいったのは「丁寧なオンボーディング」ですね。もともとは、有料のお客様には「サービスのことを詳しく知ってくれているだろう」と、冊子を同封するくらいで、そこまで説明していなかったんです。

でも「そこまで見ていないよ」という声もあったので、アプリやWeb上でも丁寧に情報を伝えるようにした結果、継続率が改善しました。

ユーザー心理を深く理解するために、やっている工夫などがあれば、ぜひ教えてください。

天沼:
続けている方に「続けている理由」を聞くのも良いですが、大事なのって「やめちゃった理由」なんですよね。そこで退会者の方にもインタビューをするようにしています。

気づきがあったのは、届いたお洋服が「いつも着ているものだった」「持っているものが多かった」という理由でやめている方がいらっしゃったこと。

つまり、スタイリストが「ピッタリなお洋服」を届けすぎたことが、実はサービス体験としてはネガティブに働いてしまっていたんですよ。

今では、登録時に「どれくらいチャレンジしたいか」を聞くようにもして、意外性のあるお洋服を、一定の割合で届ける工夫もしています。

これって使ってくれている方に、一生懸命ヒアリングをしていても、ずっとわからなかったと思うので、すごく発見があったなと感じます。

データ分析でわかった「想定外の現象」などがあれば、ぜひ教えていただけますか?

天沼:
エアークローゼットでは、気に入ったアイテムの購入もできるのですが、初回に「割引率の高いアイテム」を届けるようにしたら、購入率が下がってしまったことがあります。

理由としては、とくに新しいサービスでは「お得である理由」が想像しにくいためだと考えています。例えば、「これ、売れ残りだから割引率が高いのかな」と、思われてしまったりする。

つまり、割引率の高さに感じる「適切なお得感」というのは、なぜお得かの情報もセットで発信しないと、納得感を得られないことがあるのだなと。

エアクロって、基本は新品で毎シーズンお洋服を仕入れていて、レンタルの回数などで「購入時の割引率」が上がる仕組みなのですが、これはお客様からするとわからないことなんですよね。

情報化社会になって、企業の裏側が見えるようになった結果、「お得です」という情報だけでは、警戒されてしまう傾向もあるのかなと。

なるほど。他にはどうでしょうか?

天沼:
AIと人間のスタイリストを比較して、評価のスコアを分析したことがあるのですが、何度やってもAIは人間に勝つことができませんでした。

理由のひとつは「感情の予測」です。人間として「どんな感情を受けるか」というのは、トレンドで移り変わるもので、AIには予測が難しくて。

例えば、今はイエロー系がトレンドですが、「イエローが流行りだ」という情報を知っているかどうかでも、人の印象は変わってしまうんです。

つまり、前提知識のあるなし、トレンドの変化によっても、人が抱く印象は変わってくる。すると「感情の予測」は人のほうが精度が高くなる。

なので、AIは人間のスタイリストに、当面の間は勝てないと判断していて、どちらかというと、アシスタント型のAIをつくる方向で検討しています。

ファッションレンタルの運営で「大事にしていること」があれば教えてください。

天沼:
テレビCMをバンと打って、一気に広がるサービスではないので、闇雲にお客様の数を増やすよりも、品質を高めながらの成長を大事にしています。

例えば、お洋服の在庫をたくさん用意しても、たくさん人が来なければ一気にコスト効率が悪化してしまいます。うまくバランスをとりながら、成長していく必要があるんですね。

ここはAIを活用していて、返ってきたお洋服が「何日後に貸し出される可能性が高いか」を弾き出して、倉庫内の配置を調整したりしています。

近場に回転率の高いアイテムを置く、シーズン外で使わないアイテムは遠くに置くなど、倉庫のどこにモノを置くと、人間の移動効率が高くなるのか、というのをAIで予測して効率化しています。

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【取材協力】
株式会社エアークローゼット:https://corp.air-closet.com/
エアークローゼット:https://www.air-closet.com/
CEO 天沼さん:@satoshi_amanuma

【告知】エアークローゼットさんでは採用も強化中。エンジニアやマーケターなど各職種で募集しているそう。日本初のファッションレンタルサービスにご興味のある方は、以下のサイトよりどうぞ。

※ 以降は、マニアックな事例を4つほどnote購読者向けにまとめています。継続率とLTVを改善した「オプション機能」、購入率アップになった施策、返却ユーザー体験を高める工夫、などご興味あればご覧ください。

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