誰にツールを提供するかで単価が10倍に。ノーコードツール「Appify」の生死を分けた顧客層のピボットと、成功ECが「抽選販売と今買う理由」を大事にするワケ
ECをアプリ化するノーコード開発ツール「Appify」さんを取材しました。
「Appify(アッピファイ)」について教えてください。
福田:
ShopifyでECを運営している方が、ECアプリを簡単につくることができる、ノーコードのアプリ開発ツールです。
Appifyを導入してつくられた、ECアプリの取引規模は年間で30〜40億円、アプリの累計ダウンロード数は約100万となっています。
小規模な企業から上場企業まで、さまざまな会社が導入してくれています。
※ 現在の月間取引規模は5〜8億円。これを成長率含め年間で概算したもの。
何がキッカケで「Appify」が生まれたのでしょう?
福田:
もともと、僕たちはC向けのアプリをつくる会社だったんです。これまで5つほどアプリをつくっていて、それ自体は全然うまくいきませんでした。
ただ、毎回0からアプリを開発するって大変なので、社内にアプリを素早くつくれる「基盤のようなもの」をつくっていたんですね。
すると、友達の会社から「そんなにアプリが速くつくれるってスゴイよね」と言われて、これをサービス化すれば良いのではと考えました。
なので、Appifyの原型は「社内向けのアプリ開発の基盤」だったんですよ。それをECに特化する形でサービス化しました。
ちなみに、インターンをしていた時代から、僕が関わったサービスって全部クローズしています。上手くいっていると言えるのは「Appify」だけ。
なので、10個プロダクトをつくれば1個はヒットする。このよく言われる話は本当なんだなと実感しました。
これまでのプロダクト開発で「ターニングポイント」を挙げるとしたらどこでしょうか?
福田:
もともと、BASEに特化して「Appify」をはじめたのですが、そこからShopifyに特化する形に、方向転換したのは大きかったです。
ShopifyでつくられたECをアプリ化するツールに特化したことで、結果的に顧客あたりの単価が10倍になり、売上も大きく伸びました。
そうなった背景としては、BASEとShopifyのマーチャント(利用企業)の、規模の違いに理由があったと考えています。
規模が変わると「何が変わる」のでしょうか?
福田:
ブランドの年商って、そのブランドがツールに支払える予算(販管費)に直結します。ちなみに「年商の7%程度」がツールに払える予算(販管費)だと言われていて。
BASEって、スモールビジネス向けですと謳っているだけあって、小さなショップが多いんですよ。月商100万円のECがたくさんあるのが良さで。
一方でShopifyは、大企業がめちゃくちゃ多い。自由度が高いこともあって、年商100億円ですみたいな会社がゴロゴロいる。
それを年商の7%で考えると、年商1,000万円なら70万円、年商100億円なら7億円となって、ツールの市場規模(販管費)が大きく変わってきます。
なるほど。この決断は影響が大きかったですか?
福田:
正直この転換がなければ、資金が尽きて会社が死んでいたかもしれません。そう思うとヒヤッとしますね。
単価の高さというのは、スタートアップの「生存率」を高める重要なポイントだと考えています。セールスコスト、CSコスト、諸々を含めて少ない顧客数で遠くまでいけるので。
それで諸々を考慮して、Shopifyへの特化を決めました。より大きな巨人の肩に乗る、大きなトレンドに乗るのが正解だったのかなと。
Appifyの運営で「成功した施策」を教えてください。
福田:
上手くいったのはAppifyに「抽選販売の機能」を入れたことです。お客さんもここから増えましたし、すごく良い機能になりました。
抽選販売をうまく活用しているのは「インスタが強いブランド」なんです。彼らは「このブランドが大好き」というファンを抱えています。
そこに対して、みんなが手に入れられない「レア商品」を提供するんです。そして、その過熱商品をアプリ上で「抽選販売」していく。
すると何が起きるかというと、インスタにいる「濃いファン」が、アプリのユーザーに転換するんですよね。ここは大きなポイントで、このアプリへのシフトが「ECの利益率」を引き上げるんですよ。
なぜなら基本は、アプリのほうが購入率も購入単価も高く、プッシュ通知でリピート率も高まりやすく、必要以上に広告費もつかわずに済むから。
そして会社の利益率が上がると、ブランドはどんどん新しい企画を実行できて、新しいコラボや限定ラインの商品開発ができるようになる。
すると、また抽選販売で顧客が増えるので、このサイクルが回り続けます。
ちなみに熱量の高いアプリだと、週次リテンションは50%くらいあります。みんなECアプリを雑誌感覚でめっちゃ開いているんです。
なので、インスタが強いブランドは「抽選販売とアプリ」を組み合わせて、顧客ロイヤリティを高める仕組みをつくっているのが強い。
例えば、「9090」というyutori inc.のブランドのアプリは、10万ダウンロード以上されていますが、アプリの評価が4.9あるんですよ。
レビューにも熱量が表れています。例えば「補欠抽選の機能がアツすぎる。これでパンツ買えました」とか。すごくファンが過熱しているなと。
ユーザー視点だと「抽選販売」はどうして盛り上がるのでしょうか?
福田:
顧客が感じる「価値ある商品」の条件、ブランドや商品に対して何が価値を付けるのかという感覚が、変わってきているなと思っていて。
今って、服もめちゃくちゃブランドがあって、色々なデザインがあって、どれを買っていいか分からない時代になっていますよね。
なので、ほしくなってしまう条件として、「今しか買えないですよ」とか「限定ですよ」のような、希少性の高いものに対して、価値を感じるようになっているんですよね。
これを体現しているのが「抽選販売」です。当たった人しか買えない。誰でも買えないとなると、魅力的に感じてより欲しくなってしまう。
どうしてみんな「希少性」に価値を感じるようになっているのでしょうか。
福田:
情報が溢れ過ぎていて、みんな「情報に疲れている」とよく言いますよね。これはファッションブランドでも同じことが起きていると感じます。
もともと、ファッションブランドって「春・夏」と「秋・冬」という形で、年2回で半年前に発表される、というサイクルだったんですよ。
でも、これだけ情報が増えてくると、みんな忘れるんですよ。半年前に発表されたアイテムなんて覚えられていないからです。
それで今度は、ストリートからラグジュアリーブランドまで、毎週リリースするようになって、年2回だったのを48週に分けて発表するようになった。
そうやって、常に新商品をインスタなどで届ければ忘れられないと。でも、どのブランドもそうするようになって、また情報が溢れてしまった。
そこで、重要になっているのが「いま買う理由」なんです。今発表したものを今買ってもらう。そのためには、すぐ行動してもらう理由が必要です。
後で買ってもいいですよ。それだと情報に流されてしまいます。今買ってもらえないと、商品が買ってもらいにくくなっているわけですね。
そこにマッチする仕組みのひとつが「抽選販売」なんです。抽選には「今買う理由」がありますよね。
スニーカーは正にそうです。だって、履かない靴を買うんですよ。そこがNikeのスゴいところ。靴を履くものから集めるものに変えたんです。
さらに、そこに希少性を持たせた結果、人は履かなくても靴を何足も集めるようになりますし、顧客が自分から情報を取りにくるようになります。
抽選販売の先駆者はNikeです。Nike SNKRSというアプリは、もともと別のスタートアップのサービスを買収して、スニーカー専用にしたものです。
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【取材協力】
株式会社Appify Technologies:https://appify-inc.com/
Appify:https://www.appify.xyz/
CEOの福田さん:@yuzushioh
【告知】Appifyさんでは採用も募集中。エンジニアやデザイナーを募集しているとのこと。ご興味ある方は、下記のサイトよりどうぞ。
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