社長室からの電話プレゼンからはじまった「車のサブスク」が申込者数15万人を突破。「定額カルモくん」の成長の裏側。中古車のサブスクが成長を早めたワケ。
車のサブスク「定額カルモくん」について取材しました。
「定額カルモくん」について教えてください。
高橋:
車に定額で乗れる「自動車のサブスク」です。2018年1月のリリースから、申込者数としては累計15万人を突破しています。
特徴としては、契約期間は平均9年と長期の契約が多くて、都市郊外に住むユーザーさん(千葉、神奈川、埼玉、愛知など)が多い傾向です。
想定よりも年齢層は幅広く、20代から70代まで幅広い方が、非対面でネットで車を購入してくれています。
年収400万円くらいの平均値に近い方が、一括で200万円は厳しいけれど、月額2万円なら出せるから「サブスクを選ぶ」というケースも多いです。
サービスの立ち上げについて教えてください。最初はどんなことをやって事業モデルを固めたのでしょう?
高橋:
はじまりは「プランと企画書」だけがある状態で、車関連の会社さんを全部リストアップして、僕が社長室から1人で電話をかけていきました。
「はじめまして。ナイルという会社で代表をやらせていただいている者です。提携のお話があるのですが、事業責任者の方はいらっしゃいますか?」
営業電話だと思われるとすぐ切られてしまうため、社長であることをさりげなく強調しながら「15分だけ時間をください」と言って、3分でプレゼンをして事業アイディアについて説明しました。
「御社にもメリットがあると思います、提携の可能性はないですか?」
すると、みなさん真剣に考えてくれて、フィードバックもいただけました。それを毎回書き留めてプレゼンの精度を上げていったんです。
またプレゼンの最後に「ナイルと組んでくれる相手、もしくは組むのに適切な相手がいるとしたら誰でしょうか?」と聞いていたんですね。
そこで、よく名前が挙がった会社さんがあったため、本命になりそうなその会社さんには、紹介経由でコンタクトしました。
サービスを公開したときの「反応」はどうでしたか?
高橋:
2018年1月に、定額カルモくんのティザーサイトを公開すると、申し込みが50件きたんです。そこで「いけるやん!」と思ったのですけど。
でも、数日後に提携会社さんから「全部、審査落ちでした」と言われて。「えっ本当ですか?」と。ここに我々が知らない真実があったんです。
実は、大手自動車メーカーの店舗でのカーローンって98%通るのですが、WEBになった瞬間に審査通過率が30~40%まで落ちるんですよ。
なぜかというと、店舗とWEBでは客層が全く異なるから。WEBなら非対面で審査に落ちても恥ずかしくないということで、必然的に「与信の低い層」の方の比率が多くなるんですよね。
同じ領域のサービスでも、店舗とWEBでは「客層」はガラッと変わる。与信の審査に困っている人って、実はめちゃくちゃ多いのだなと。
という課題に気づいて、2方向に施策を打ちました。ひとつは、与信の高い層の方につかってもらえるように、信頼性と認知度を高めること。
もうひとつは、与信が低めの層に向けて、提携する金融会社さんと話し合って、ダイナミックに審査を受け渡していく取り組みを進めました。
定額カルモくんの運営で「ここはポイントだった」と思うことがあれば教えてもらえますか?
高橋:
定額カルモくんの体験って、本質的には既存のカーリースに極めて近いんですよ。細かくは違いがあるものの、安い価格で月額定額で乗れるのは同じ。
明確に違いが出せたのは「11年リース」を日本初で出せたこと。サービスをはじめてみると「9年リース」を選ぶ方が最も高かったんです。
そこで振り切って、2019年に「11年リース」を出したことで、月額をさらに安く提供できるようになり、車が売れやすくなりました。
あとは、2019年に中古車に対応したのも大きかったです。中古車の強力な差別化ポイントって「納期の早さ」なんですよ。
新車のマーケットというのは、国際情勢に大きく影響を受けます。中国でのロックダウンなどによって、部品がつくれないと納品に1年かかったりする。
それが、中古車ならすぐに手配できる。「新車は1年かかります」だと失注してしまいますが、それが「中古車なら1ヶ月ですよ」と言えるようになる。
現在の販売台数では、新車と中古車は「6:4くらい」の比率になっています。
ただ中古車ってすごく大変なんです。この車は100万円、この車は120万円と値段が全部違うものを、月額定額に落とし込まないといけないから。
細かくいうと「その中古車がどこにあるか」でも輸送コストが変わります。そこまでデータベース化しないと成立しないんですね。
ただ大変ではありますが、中古車版がなかったら「サービスを縮小しよう」と考えていた可能性もあるくらいに、影響は大きかったと思います。
プロダクト運営で「おもしろい結果になった施策」などがあれば教えてもらえますか?
福田:
車を選ぶステップを飛ばして、すぐに審査を進められる「クイック審査」という仕組みを入れたところ、売上や申し込み率が伸びました。
背景にあるのは、定額カルモくんのユーザーさんの約半数は「ほしい車」が決まっていない中で、お申し込みをしていただけることなんです。
つまり「この車に乗りたい」ではなくて、「お得に車を持ちたい」から入るケースが多くて、車種にこだわりがなく「おすすめの車を提案してほしい」と考える人もめちゃくちゃ多いんですね。
この仕組みを入れたところ、申し込み率や売上が大きく伸びて、現在のお申し込みの50%以上は、クイック審査経由となっています。
WEBサービスだと「審査結果に不安を抱える人」も多いため、自分の審査が通るかどうかをまず知りたいニーズも強いです。
定額カルモくんで「成功した施策」を教えてください。
福田:
広告で納期を表現するときに、「4日で届きます」と日数で訴求するよりも「2月末までに届きます」と期日で訴求したほうが、反応が良かったです。
理由としては、恐らく「いつまでに車が欲しい」と、期日で納期をイメージしている方が多いからなのかなと。
とくにディスプレイ広告など、サービスをよく知らない方に対しては、期日での訴求にすると、反応がとても良い傾向がありました。
またサイトで審査をご案内するときに、「審査申し込み」と表記するよりも「お試し審査」と表記したほうが、申し込み率が高くなりました。
理由としては「審査に通るだろうか」と不安に思われている方も多いため、心理ハードルを下げる表現のほうが良かったのだと思います。
この仕組みによって「会社の指標を改善できた」という工夫などがあれば教えてください。
高橋:
フミダスという名前の、社員の異動希望を「1年以内に100%叶える」という人事制度をつくったところ、優秀な社員の勤続年数が上がりました。
優秀な人って挑戦できなくなると転職してしまうので、新しく挑戦できる環境をどんどん提供するのが、この制度のポイントです。
辞めるくらいなら他部署で活躍してほしい。経営者はみんなそう思っていても、本人としては「簡単に異動できない」と思って辞めている。
なので、これは公言して制度化することに意味があるし、挑戦心のある人が常に挑戦することを良しとするのを、社内に伝える効果もあるんです。
あと採用力も上がりましたね。優秀な人ほど「挑戦しがいのある環境」を求めるから、他社と競争になったときに選ばれやすくなります。
ナイルの内定承諾率は8割ほど。オファーを出せば結構みんな来てくれます。こうした制度も魅力に感じてもらえているのかなと思います。
新しく事業を立ち上げるときに「ここは意識している」という点があれば教えてください。
高橋:
僕は、ユーザーベネフィット(便益)と、それを「表現する言葉」をつくるということが、一番ビジネスにおいて大事じゃないかと思っていて。
つまり、ビジネスの本質って「① こんなベネフィットが顧客にある」ということと「② それが分かりやすく伝わる」この2つだと考えています。
もちろん、市場規模とか参入タイミングもあるけど、それさえあれば広告や自然流入も含めて、あらゆる施策が打てると思うんですよ。
そこがわからなかったり、関係者の中で認識がブレていると、どんな施策もハマらないので、そこを常に考えますね。市場規模などは後付けです。
例えば、「○○(バズワード)の市場ってデカいですよね。僕らはそこを取りにいきますよ」という話って、ユーザーが置き去りになっていて。
結局は、ユーザーのベネフィットが存在しないままサービスをつくっても、立ち上がらないケースが多いのかなと。
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【取材協力】
ナイル株式会社:https://nyle.co.jp/
定額カルモくん:https://carmo-kun.jp/
高橋さん:@hisho_fly
【告知】ナイル社では、カルモでブラッシュアップしたマーケティングノウハウを、他社にコンサルティングサービスとして提供中とのこと。ご興味ある会社さんは、ぜひ問い合わせてみてください。
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