サブスクモデルに転換したら2年で売上が約3倍に。オーディオストックのサブスク戦略の成功の裏側。30日の「無料トライアル」をつけたら顧客が急増した話。
「オーディオストック」について教えてください。
西尾:
2013年に開始した、ストックミュージックサービスです。音楽クリエイターの方が創った「94万点以上」の音楽作品を、販売・配信しています。
ユーザー登録数は約15万アカウント、音楽クリエイターの登録数は3万組、クリエイターの方への収益分配額は年間で2億円を突破しました。
オーディオストックからのお支払い金額が、年間1,000万円を超えるクリエイターさんも登場するようになっています。
「オーディオストック」はどう生まれたのか。
西尾:
僕自身もともと音楽家でした。小さい頃から音楽をやっていたり、作曲をしたりバンド活動をやったり、個人サイトで曲を公開していました。
当時の悩みは「誰も聞きに来ないこと」でした。個人サイトまで人に来てもらうのは難しい。そこでつくったのが楽曲のコンテストサイトでした。
無名の音楽家でも「このコンテストで優勝しました」とか「有名な音楽家が最優秀賞に選んだ」となれば、聞きに来てくれるんじゃないかと。
それで創業事業として、コンテストサイトを立ち上げたのですが、ビジネスモデルが成立しなくて、端的にいうと失敗してしまったんです。
ただ、音楽クリエイターは1万人ほど集まっていて。次に、楽曲を販売できるサービスをつくったらどうかと、開発したのがオーディオストックでした。
サイトを公開すると、最初は「無風」でしたね。何も起きず何も売れない。初期は本当に「月に数万円」しか売れないような時期もありました。
当然それでは食っていけません。それで最初の数年は、システム開発の下請けのような、受託開発の仕事でしのぎました。はじめは苦しかったです。
当初はサブスクモデルではなくて、曲は1曲あたり数千円、効果音は1点500円のような感じで、単品で販売するプラットフォームでしたね。
お金もあまりなかったので、地道にお金のかからないことを続けて、少しずつ成長していきました。
ストック音楽サービスは「楽曲のラインナップ」が充実すると一気に指標が伸びる
西尾:
あとから振り返ってみると、音源数が10万点を超えた頃からすごく満足度が上がって、リピート率とか顧客単価が一気に伸びてきたんですよ。
ストックミュージックという事業は、「ラインナップを一定数まで充実させること」が、めちゃくちゃ重要なんだなとわかってきました。
当初はクリエイターと顧客をバランスよく集めるべき。どちらかに偏ると満足度が上がらないと思ったのですが、これは間違っていました。
実際には、まずはクリエイターとコンテンツに集中して、一定数まで楽曲のラインナップを充実させることを、最重要な指標に置くべきでした。
なぜなら、コンテンツが少ないと人が来ても「自分が求めるものはないな」と帰ってしまい、そこから二度と来てくれなくなるからです。
急成長につながった「サブスクモデルへの転換」
西尾:
海外のサービスが軒並み「サブスクモデル」で伸びていたので、サブスクに転換すべきだというのは、なんとなく頭でわかっていました。
サブスクのほうが売上は増えるだろうな。音楽家に還元できる額が大きくなるだろうな。ある程度のそういう自信はあったんですよ。
ただ、サブスクはつかわれるほど単価が下がるので、1曲の単価はどうしても下がってしまう。僕も音楽をやっていたからそこへの抵抗感もあった。
クリエイターから批判が出るのも怖くて、決断に時間もかかったのですが、2019年12月に意を決してサブスクを開始しました。
実際に「サブスク」を開始すると、どのようなことが起こりましたか?
西尾:
実際に予想した反発はめっちゃあって。批判を書いたブログが出てきたり、有力クリエイターさんからも反対の声が上がりました。
僕は正しい判断をしたつもりでしたが、大切に思っていたクリエイターさんたちからの批判もたくさん生まれて、精神的にはつらかったですね。
やっぱりみなさん不安で、1曲あたりの単価が減って収入も減るじゃないか。月2,000円の定額で10曲つかわれたら「1曲あたり200円?」ひどすぎるよ。そういう批判がたくさん出てきたんです。
でも、いくら頑張って説明をしても、結果を出さないと納得してもらえないと思ったので、結局もう事業を頑張ろうという結論になりました。
結果としては、1年かからないくらいで、クリエイター還元額が伸びていき、サブスクを開始した2年後には、売上が約3倍になったんです。
批判していた方も還元額が伸びると、支持してくれるようになりました。
サブスクによる変化①:「新しい顧客層の登場」
西尾:
サブスクをはじめてからの変化としては、単純に顧客が増えましたね。
予算的な都合でオーディオストックを選べなかった方がつかってくれるようになったり。とくにYouTuberの顧客はすごく増えたんですよね。
以前は、数日に1本は動画を公開するYouTuberさんが、単品で5~10曲を買うとなると、数万円かかるので手が届かなかったんですよ。
それがサブスクになって、月2,000円で何曲でもつかえるようになったことで、圧倒的にコスパが良くなり「動画に活用しよう」という方が増えた。
スタートアップ業界には「PMF」という言葉がありますけど、それはこういうことなのかなと感じたポイントでもありました。
サブスクによる変化②:「クリエイター層の拡大」
西尾:
サブスクに移行したことで、数千円~数万円くらいを稼ぐ中間層のクリエイターが、ぶわーっと増えて裾野が広がるという現象も起こりました。
単品だと「これは間違いないな」という曲を購入する方がほとんどですが、サブスクだと「とりあえず試してみよう」と試してくれる方が増えます。
すると、ちょっとこの曲は挑戦的だけど、クライアントの反応を見てみようということもできるので、曲の裾野が広がりやすくなるんです。
単品販売だと、ピラミッドの「上位の人」の曲ばかり売れるんですよね。みなさん「これは絶対つかう。間違いない」という状態で買うので。
サブスクだと、ピラミッドの「真ん中より下」にいる人の曲もつかわれやすくなる。そこの「利用の変化」はおもしろかったですね。
今回の経験から得られた「教訓」があるとしたら、どのようなことが言えると思いますか?
西尾:
一時的にクリエイターの不利益になるという施策でも、中長期的にクリエイターのためになるなら、勇気を持って取り組むべきということです。
結果としては、サブスクで稼いでもらえるようになったので、振り返ると「これは正しい決断だったな」と言えます。
あとは「稼げること」から逃げてはいけないなと。僕も初期にクリエイターの方から、いろんな要望をいただいたんですよね。
例えば、デザインがカッコいいと嬉しい、収入レポートが見やすいと嬉しいとか。でも「稼げること」が何より重要だなと改めて思います。
お金が全てじゃないのはそうですが、お金があれば機材を買っていい音楽をつくれるし、仕事を減らして音楽の活動時間を増やせます。だから、いかに売上を伸ばしてクリエイターに還元できるかが大切です。
成功施策:「無料お試し」で新規顧客が急増
西尾:
うまくいった施策は、30日間の「無料お試し期間」をつくったことでした。これをやったことで、新規の契約数がめちゃくちゃ増えたんですよ。
ポイントは「実務に落とし込んで体験できる」ようにしたことでした。
もともと、オーディオストックでは「全部の曲」がサイトに公開されていて、ユーザー登録なしで聞けたので、曲を探して視聴するところまで無料で出来たんですよね。だから「無料お試しはいらない」と思っていた。
でも、これだと「実際の業務」には組み込めません。曲をダウンロードして編集ソフトに入れられないし、上司やクライアントに完成イメージを共有できない。似ているようで体験に大きな差がありました。
それが、無料期間を用意したことで、実際の業務に落とし込んで体験できるようになって、お金を払ってくれる人が増えたんです。
お客さんにヒアリングをしても、「実際の業務に落とし込んで確認しないと、お金を払うのは不安に感じる」という声は非常に多かったですね。
お金を支払う意思決定の前に、いかにお客さんの不安ポイントを消して、業務に組み込んだ状態をイメージしてもらえるかはすごく大事だなと。
ユーザーデータからわかった「想定外だったこと」があれが教えてください。
西尾:
場所によっても「選ばれる音楽」に差が出ていることです。
例えば、オーディオストックのサイト上では、企業のCMや動画などの需要が高いので、明るくて爽やかで透明感のある曲が人気なんですね。
一方で、僕らはTikTokさんと提携して、TikTokの動画でオーディオストックの音楽がつかえるようにしていますが、そこは全くの別世界です。
例えば、こおろぎさんという音楽クリエイターの「ホラー調のピアノ曲」は、1つの曲が約45万件ものTikTokの動画でつかわれています。
TikTokでは、個人が遊びやダンスの動画につかうことも多いため、ホラー的なおどろおどろしい曲や、運動会的な賑やかな曲の人気が出ますね。
これは、TikTokの動画でオーディオストックの音楽がつかわれると、会社に収益が入ってきてクリエイターにも分配される仕組みになっています。
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【取材協力】
株式会社オーディオストック:https://audiostock.co.jp/
オーディオストック:https://audiostock.jp/
西尾さん:@nishiocf
【告知】興味があれば「オーディオストック」をぜひ覗いてみてください。YouTubeで「権利的に安全な曲」がつかえる点も支持されているとのこと。
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