85万人が利用する産直EC「食べチョク」が語る「生産者ファースト」なマーケティング。農作業を手伝う理由、映え写真より「日常的な写真」の効果が高かった話。
産直ECの「食べチョク」さんを取材しました。
「食べチョク」について教えてください。
松浦:
⾷べチョクは、⽣産者さんから購入できる「産直通販サイト」です。野菜・果物をはじめ、米・⾁・⿂といった⾷材や花き類を取り扱っています。
2017年8月に正式リリースして、ユーザー数としては85万人、生産者登録数としては8,600軒、商品数としては5万点に到達しています。
2020年に比べると、生産者さんの数は10倍に伸びていて、ネットに初挑戦して「あそこ美味しいよ!」と口コミで売上が伸びるケースも多いですね。
僕らが営業するというよりかは、「近所の○○さんがEC販売をはじめて、うまくいっているみたいだよ」みたいな口コミで登録が増えています。
「生産者ファースト」なマーケティングの進め方
松浦:
僕らは、一次産業の課題を解決する会社なので、その原点を忘れないようにするためにも、生産者さんのところに定期的に足を運ぶようにしています。
現場に行くと、やっぱり東京のオフィスにいては「気付けなかった発見」がたくさん見つかるんですよ。これが機能の改善やユーザーの解像度を高めることにもつながってきます。
例えば、生産者さんの直伝レシピをのせる「レシピ機能」は、現地での体験もヒントに改善しました。
生産者さんの現場で、ご飯をご馳走になると「これめちゃくちゃうまいな」というものがあって。でも、レシピを聞いたりすると「こんなの簡単だよ」と謙遜されることも多かったんですね。
しかし、ユーザーからすると、農家や漁師の人が「現地で食べている料理」って、最も知りたくて価値がある情報じゃないですか。
そこで、そういう「農家飯や漁師飯」も投稿してもらえるように、初期のレシピ機能には、カテゴリに「食べ方」のようなものも入れていましたね。
やはり「レシピ」だと身構えられてしまうので、「食べ方を投稿してください」といった伝え方のほうが、気軽に投稿してもらえるだろうなと。
生産者さんの「現場のオペレーションに対する解像度」が上がると、僕らの打ち手の精度もどんどん高まっていくんですよ。
例えば、生産者さんって、昼~夕方まで作業をしていて、その日に収穫したものを運んできて、袋詰めをして伝票を貼って発送しています。
それで、夕方などに配送業者の方が集荷に来るので、本当にタイムアタックみたいに、爆速で忙しい中で準備をしているんですね。
僕らは東京のオフィスにいて、キャンペーンで「同梱物を入れてほしい」と思ったときに、現場を知らないと「簡単にできる」と思ってしまいます。
でも、その忙しい状況を知っていれば、食べチョクの発送物にだけ同梱物を入れてもらうって、難易度が高いことだよねと理解できます。
僕らは、どんな施策を実施するときでも「生産者ファースト」という心構えを大切にしています。
例えば、生産者さんには「こだわりに見合った価格」で販売してほしいため、価格競争を後押しする「注文順ランキング」もつくりません。
小さな機能の改善でも「本当に生産者さんのためになるか」を一番に考えて意思決定をしています。
施策①:商品ページで「必要な情報だけ」に絞ったら再訪率が改善
松浦:
食べチョクの商品ページには、以前は「詳しい情報」まで全て表示していたのですが、それを「本当に必要な情報」に絞ったところ、再訪率を改善することができました。
具体的には、商品ページ内の「詳細な情報」は折り畳んでおいて、より詳しい情報を知りたい人には、開いてもらうデザインにしましたね。
商品ページの下にある「レビュー」も同様で、レビューをバーっとたくさん表示するのではなくて、一部だけに絞るようにしました。
ユーザー視点では「情報が多すぎる」と選びきれないのだと思います。「ここが一押しです。こだわりです」とポイントを絞ったほうがよかった。
食べチョクには「桃」だけでも数百件の商品があります。いくつかの商品を比べながら購入される方も多いので、情報が多すぎると「比べやすさ」も失われてしまうのだと思います。
リピート率の手前にくる指標として「再訪率」は重視していますね。再訪率を上げるには、いい商品を探しやすくすること、いい商品に出会えてまた買いたくなることなどを意識します。
施策②:映え料理より「お弁当」の効果が高い理由
松浦:
インフルエンサー施策として、食材をお届けしてインスタに投稿いただく「食べチョクアンバサダー」という企画をやっていたんですね。
そのときに最初は、おしゃれな映え食材を届けて、インスタグラマーさんにおしゃれな料理をきれいなテーブルに載せて、投稿してもらっていました。
でも数字を見ると、その投稿よりも全然数字がいいものがあって。それが何だったかというと、家庭的な「お弁当の写真」だったんですよね。
おしゃれな料理って普段はつくらないじゃないですか。すると「自分もやろう」とはなりづらくて「おしゃれだね」で終わってしまう。
でも、お弁当なら「自分にもできそう!」と思ってもらいやすくて、日常の中でつくれる機会も多く、家庭料理の延長のように試しやすいため、反応率や効果が良かったんです。
お弁当の投稿をいろいろ試すと、お弁当の中でも「映え系」の投稿よりも、実用的な「使いやすい系」の反応が良いとわかってきて。
そこで「映え・おしゃれ・ゴージャス」より「日常・ナチュラル・リアル」といった方向性のほうが、良いのだなとわかってきました。
商品の画像においても、カッコイイ画像よりも、内容量がわかるもの、利用シーンを想起させるもののほうが、反応率が良い傾向がありました。
定期的に「捨てる会」をやっている理由
松浦:
運営の生産性を高める工夫としては、隔月でチーム毎に「捨てる会」というものをやっています。例えば、古くなったページを見つけて削除したり、止まってしまっている企画を清算したり。
これは、大掃除のように「これ要らないのでは?」「この検証は一旦終わりましょう」という感じで、運用的な負債を「捨てる意思決定」をする機会を意図的につくっているという感じです。
何もしないと、インターンが更新していたけど止まってしまった企画とか、去年と今年で「秋の収穫祭」のページが2つあってSEOや体験的に良くない、みたいな負債が溜まるので、それを解消するイメージです。
【取材協力】
株式会社ビビッドガーデン:https://vivid-garden.co.jp/
食べチョク:https://www.tabechoku.com/
松浦さん:@agri0607
【告知】ビビッドガーデンさんでは、各職種で採用も強化中。プロダクトマネージャー(PM)やUIデザイナーやエンジニアなど募集しているとのこと。ご興味ある方は下記のサイトよりどうぞ。
ここから先は
月刊アプリマーケティング
プロダクト運営について学べるマガジンです。アプリやプロダクトの売上やユーザー数を伸ばしたい人にオススメです。月に7記事ほどお届けします。