見出し画像

年間売上278億円に到達した「食べログ」が顧客の声を聴く「カスタマーフライデー」を続ける理由。ユーザーの声を「事業成長」につなげるコツと5つのアプリ成功施策。

食べログさんを取材しました。

株式会社カカクコム 食べログサービス本部 ユーザーサービス企画部 部長 香西 利彦さん

「食べログ」について教えてください。

香西:
食べログは「レストラン検索・予約サービス」です。掲載店舗数は86万店舗が掲載されていて、口コミ数は6,600万件を超えています。

Webは月間22億PV(UUは約9,350万人)、アプリの月間アクティブユーザー(MAU)は870万人に到達しています。年間売上は約278億円です。

業績が好調な理由としては「ネット予約サービスの成長」が大きいです。食べログでは、年間で延べ8,000万人以上がネット予約を行っています。

これは予約人数ごとの「従量料金モデル」になっていて(ランチ100円、ディナー200円)、予約が増えるほど売上の成長につながります。

体験としては「アプリの体験」を重視しています。アプリを利用してもらえると継続率が高くなり、ネット予約の頻度も高くなるんです。

⸺食べログで行われている「ユーザー体験を高めるための取り組み」を教えてください。

香西:
食べログのユーザーさんと話して、体験を考える「カスタマーフライデー」という取り組みを、毎週金曜に2年半(約100回)続けています

具体的には、Zoomでユーザーインタビューを行いながら、その様子を社内のTeamsにつないで、チャットで議論しています。

この方法であれば、ユーザーさんも「何十人に見られている」という感覚にはならないので、リラックスしながら話していただけます。

とくに社内チャットが盛り上がるのは、後半に「画面共有」をしてもらい、ユーザーさんに「お店の探し方」などを再現してもらうシーンです。

ユーザーファーストが大事だと言われるよりも、結局「自分がつくったモノ」が使われるのを目の前で見たほうが、体験って意識しやすいんですよ。

エンジニアなら「あそこの通信が遅かったな」と実感したり、デザイナーなら「この機能、想定通りに使われてないかも」と実感したりします。

例えば、食べログのトップには「地図」があります。デカデカと表示されていることもあり「みんな知ってくれているはずだ」と思っていました。

しかし、実際は「知らない人」も多くいました。インタビューでも「Googleマップには地図があるけど、食べログには地図がなくて不便ですよね。」といった声をいただいたことがあって。

ただ、実際には地図があるので「地図もあります!」と伝えると「本当ですか!?」と驚かれていました。これは僕自身も学びになりました。

食べログって「検索する場所」だと思われていることも多く、意識が地図に向かないまま大きく表示しても、気づかれないことがあるのだなと。

⸺カスタマーフライデーを続けたことで「どのような成果」を得られたと感じますか?

香西:
課題が見つかるのはもちろんですが、コミュニケーションの活性化によって「組織の雰囲気が良くなる」という効果を感じています。

インタビューを見ながら「ああだね、こうだね。」と会話をしたり、「この機能の利用率を見てみよう。」といったコミュニケーションが生まれています。

会議のときにも、「カスタマーフライデーではこうでしたよね。」と共通言語として使われたり、チームの中に蓄積されていくのを感じます。

意思決定の根拠も「架空のユーザー」になりません。自信を持って「こんなユーザーさんがいました。」と言えますし、納得感を持って改善に臨めます。

日程予約をしてもらうときに、予約フォーム(Microsoft Bookings)を使って、ユーザー自身に予約してもらうと、日時を覚えてくれやすくなりキャンセル率を大きく減らせた。

香西:
気をつけるポイントとしては、やはり「1人の意見」ではあるので、その声に引っ張られすぎるのはリスクだとは感じます。

ミスリードを回避するためには、N1の声を聞いたあとに、定量的に「その課題を抱える人が多いのか?」を評価するフローを入れると良いと思います。

例えば、食べログの場合は「アンケート」などで、多くのユーザーに意見を聞いたり、データを見ることで「課題の大きさ」を確認したりしています。

事業を成長させるためには「優先度をつけること」も重要なので、そこは「RICEスコア」をもとに優先順位をつけていますね。

リーチが大きいのか、インパクトが高いのか、工数が少ないのか、これらを見ながら進めていきます。

⸺カスタマーフライデーを通してわかった「想定外だった発見」があれば教えてください。

香西:
食べログのトップには、以前は「日時人数検索」という機能がありました。これは「エリア・ジャンル・予約日時」を入れて、ネット予約できるお店を検索する機能です。

僕らはこれをずっと「重要な機能だ」と認識していましたが、インタビューを繰り返すと、実は「ガッカリ体験」を生んでいるとわかってきました。

では、トップページにあって、実際に利用率も高くて「重要機能」なのに、なぜ最終的に「削除」することになったのか。

理由は、「誤認されて利用されていたため」でした。

この「日時人数検索」の日時というのは「ネット予約できる日時」を検索する機能です。ところが、この日時を「お店の営業時間」として検索しているユーザーさんがものすごく多かったんです。

例えば、「渋谷・ラーメン・本日19時」と入れると、ネット予約に対応したラーメン屋さんって多くないので、検索がそこまでヒットしません。

でも、ユーザーさんは「19時に開いているお店」のつもりで探しているので、「食べログってお店の数が少ない。」という感想になってしまう。

でも、実際には「日時と人数」を外せば、大量にラーメン屋さんが出てくるわけですよね。この認識のすれ違いが発生していました。

いろいろ試した結果、こうした「ガッカリ体験」は消しきれなかったため、この「日時人数検索」は削除することにしました。

データにもユーザー体験が表れていて。最初は「日時人数検索」ってめっちゃ使われるんです。でも「ガッカリ体験」が待っているので、訪問回数が増えるたびに利用されなくなるんですね。

一方で、アプリの上部にある「フリーワード検索」って、訪問回数が増えるたびに体験が良いから利用率が伸びていくんですよ。

この数字を「訪問回数」という分解をせずに見ると、最初に使った人はめっちゃ使うから、俯瞰して見ると「利用率が高い機能」に見えちゃうんです。

ですけど、実態は最初だけは利用率が高いけど、ガッカリして誰も使わなくなっていく「ガッカリ体験の量産機」だったんですね。

削除するときには、慎重に5~6段階に分けてABテストをして、ネガティブな影響がでないかを検証しながら削除する判断をしました。

成功施策①:来店後に「口コミ投稿のお願い」をしたら投稿数が増加。

香西:
食べログって、もともと口コミが多いサービスではありますが、コロナ禍前と比較しても「口コミの投稿数」って約4倍に伸びているんです。

例えば、ネット予約した人に、予約時間から推測して「来店を終えたぐらいの時間帯」に、「良ければ口コミを書いてくれませんか?」というポップアップを出したところ、口コミの投稿数がすごく増えました。

口コミの投稿数は、「投稿者の数 × 1人あたりの投稿数」で構成されますが、これは投稿者の数(レビュアー数)が増えた施策です。

つまり、適切なタイミングでお願いすると「今まで口コミを書いたことのなかった人が、書いてくれるようになる」という効果があったんですね。

成功施策②:アプリの訴求を「機能っぽく」伝えたらDL数が6倍に。

香西:
僕が食べログの部署に来たのは2020年ですが、それ以前から食べログのWebには鬱陶しいぐらいの「アプリ誘導のバナー」が入っていました。

SNSでも「うざい」「鬱陶しい」と言われていて、僕もストレスを増やす施策はやりたくなかったので、これを減らしたり緩和したいと考えました。

そこで、アプリに誘導する箇所は増やさないで、既に出ているモーメントの体験を磨いていきました。

例えば、店舗詳細ページに出るアプリへの誘導を、広告的なデザインから「機能っぽいデザイン」に変えたところ、ここからのアプリのダウンロード数を月間で約6倍に伸ばすことができました。

これは、広告っぽいものを「機能っぽいデザインに変えた」というところが、心理効果として大きかったのかなと思います。

広告っぽいデザインだと、反射的に「邪魔だから消そう」となりやすいと思うのですが、機能っぽく出すとそれが多少は緩和されるのかなと。

成功施策③:月1回だけ「食べログプレミアム」を案内したら会員急増。

香西:
アプリの起動タイミングで、月1回だけ「プレミアムどうですか?」と案内を表示したところ、食べログプレミアムの「月間の登録数」が月間で約8倍に成長しました。

ユーザーさんのストレスにならないように、体験の邪魔にならないように、頻度としては「月に1回だけ」に絞って表示させてもらっています。

もともとは、「プレミアムに登録しようかな」と思った方だけが、登録画面に向かうというフローだったため、到達する人数が少なかったんです。

これを出来るだけ多くの人に、プレミアムのメリットなどを見ていただけるようにしたことで、登録画面の到達人数が伸びて会員数が急増しました。

サブスクの会員が増えれば、その分の利益をユーザーさんに還元できるようにもなるので、体験とのバランスを考えながら実行しています。

成功施策④:検索の「0件ヒット率」を減らした方法。

香西:
食べログの検索で「0件ヒット率」(お店が1件もヒットしない)を減らしたことも体験の向上につながりました。

ここに着目した理由は、自分自身が「検索したら0件ヒットだった」という体験をして、なぜこうなるのかと違和感を持ったからでした。

ただ、これだけでは「1人の意見」に過ぎないので、まずは「課題の規模感」を確認するために、ユーザーアンケートを取ることにしました。

それで、アンケートで「食べログの検索のガッカリ体験」について聞いてみると「ガッカリした人」が45%もいたんです。潜在的には食べログユーザーのうち数百万人が課題を感じている可能性があるなと。

次に課題をグルーピングしました。「どんなときにガッカリしたか?」という設問の回答を1万件ほど確認して整理しました。そこから、課題に優先度をつけてひとつひとつ問題点を潰していきました。

例えば、表記揺れ。「串かつ」を検索するときに、ひらがなの「くしかつ」は当たるけど、漢字の「串」になると当たらないとか。

結果として、「0件ヒット率」を8%から1%以下に減らすことができました。レビューや問い合わせで「検索がイマイチ」と書かれることも減りました。

成功施策⑤:「口コミ投稿の継続率」を高めるためのアクション。

香西:
食べログで、マジックナンバー分析をすると、「3人以上を7日以内にフォローした人は、口コミ投稿の継続率が上がる」という結果が出ました。

面白いのは「フォローする」なんですよ。「フォローされる」「いいねされる」にも相関はありますが、「フォローすること」との相関が最も高かった。

誰かをフォローするってことは、その人の口コミを「継続的に読みたい」ってことだと思うのですけど、それって「誰かに口コミが読まれているんだ」と自分が実感することにもつながるのではないかなと。

そうした「コミュニティ感」を意識した人は、より誰かをフォローしたり、口コミも継続的に投稿してくれるのだと思います。

一度だけ口コミを書いて「二度と書かなくなる人」は多いのですが、これがわかってから「継続的に書いてくれる人」を伸ばしやすくなりました。

ここまで細かく「プロダクトを改善していく文化」がどのように浸透していったか教えてください。

香西:
僕が食べログのチームに来たのは2020年のはじめで、その半年後ぐらいに「検索を改善するチーム」を持たせてもらえることになりました。

そのフェーズのときには、食べログでは規模が大きな開発が多くて、細かくプロダクトの改善を行う「PDCAを回す文化」はあまりありませんでした。

そこで、最初は「速くリリースする文化」を作ろうと考えて、チームの目標としては「①リリース数」と「②ポジティブな反響数」を置きました。

まずは「リリースすること」を評価して、小さな改善でも「速く出すこと」を目指す。そして、定性か定量の「ポジティブな反響」も評価しました。

例えば、SNSで1件の「良い口コミ」を見つけてもOKですし、データとして定着率が上がったでもOK。速度と良い反響を評価したんです。

そして、第2フェーズでは「リリース数」だけ伸びても事業は伸びないので、きちんと「事業のKPIをグロースさせること」を評価対象にしました。

例えば、口コミ数を増やす、アプリのMAUを増やす、検索を改善するなど、事業のKPIにつながるアクションを評価しました。

第1フェーズで「速く小さく出して効果測定する」という文化ができたので、第2フェーズでは「事業の成長」にフォーカスしたんですね。

そして、第3フェーズ(現在)では、より長期的な目標にフォーカスして、「戦略的な案件をリリースして完遂すること」を評価対象にしました。

具体的には、「本質的な社会課題にフォーカスして、食べログがこの先10年愛されるサービスになるように考えよう。」といった方針を掲げています。

例えば、「ネット予約を伸ばす」もそうです。事業KPIに加えて長期的な課題にもきちんとリソースを使って取り組んでいます。

定量的には測定しにくいけど「これは続けてよかった」という取り組みがあれば教えてください。

香西:
2017年から、専門家などによる評価ではなく、生活者による投票でトップレストランを選出する「The Tabelog Award」を毎年続けていることです。

目的は「食のトップの飲食店を称えること」です。美味しいものを極めようとしている方たちに、特別な存在であることを伝えるのが役割です。

直接的な収益増にはつながらないですが、去年は授賞式を「帝国ホテル」で開催させていただいたり、毎年かなりの投資をして取り組んでいます。

2024年は456店舗がノミネートされて「Gold、Silver、Bronze」といった形で表彰されました。新たに選出されると、お店に注目がより集まるケースも多いです。

---

【取材協力】
株式会社カカクコム:https://corporate.kakaku.com/
食べログ:https://tabelog.com/
Tabelog Tech Blog:https://tech-blog.tabelog.com/
株式会社カカクコム 香西 利彦さん、広報の内山さん、小山さん

【告知】食べログさん(カカクコム)では各職種にて採用中とのこと。ご興味あれば下記のサイトから詳細をご覧ください。

※ 以降は、+αの成功事例などを5つほどnote購読者向けにまとめています。アプリのレビュー評価数を10倍に増やした工夫、Webからアプリへの誘導率を高められた伝え方、口コミ投稿キャンペーンの効果を高めた訴求、などご興味あればご覧ください。

ここから先は

1,559字 / 4画像
アプリやプロダクトの成功事例が学べるマガジンです。プロダクトの売上やユーザー数を伸ばしたい人にオススメです。成長プロダクトのインタビュー、効果のあったマーケティング施策、事例やデータなどが中心(月に7記事ほど)多くの過去記事も5年ほど遡って読めます。クレカ決済だと初月無料なのでお試しでもぜひ。

月刊アプリマーケティング

¥2,000 / 月 初月無料

プロダクト運営について学べるマガジンです。アプリやプロダクトの売上やユーザー数を伸ばしたい人にオススメです。月に7記事ほどお届けします。