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売上35億円の名刺アプリ「Eight」が語る、通期黒字化に到達するまでの成長の裏側。アプリの指標を改善した「2つの成功施策」

名刺アプリの「Eight」さんを取材しました。

Sansan株式会社 取締役 Eight事業部 事業部長 塩見 賢治さん、プロダクト部 マネージャー 中西 仁奈さん、プロダクト部 プロダクトマネージャー 越智 瑛甫さん

⸺「Eight」について教えてください。

塩見:
2012年にサービス開始した「名刺アプリ」です。紙の名刺を管理できたり、スマホをかざしてデジタル名刺交換ができたりします。

ユーザー数は約372万人、Eight事業の売上は約35億円、Eight事業としては2024年5月期にはじめて通期黒字化を達成できました。

売上の内訳としては、BtoBサービスが売上の約90%を占めていて、そのうち約半分がイベントサービスの売上になっています。

例えば、Eight主催で「Climbers」「Startup JAPAN EXPO」などのイベントを開催し、主にスポンサーからの収入でマネタイズしています。

⸺そもそも「Eight」はどのように生まれたのでしょうか?

塩見:
もともと、Sansanという「企業向けの名刺管理サービス」をやっていたのですが、その頃から「個人の名刺管理にも課題があるな」と感じていました。

また当時、LinkedInやFacebookが成長する中で、個人がビジネスパーソンとしてつながる「ビジネスネットワーク」にも需要が出てくると考えました。

それと、日本人は名刺帳を持っていたので、これをデータで管理できれば、それ自体が「ビジネスネットワークになる」と仮説を立てたんですね。

「紙の名刺を管理すること」も課題として捉えていましたが、10年後には「紙の名刺はなくなるのでは?」という考えも正直あったんです。

なので、まずはじめは「名刺の管理アプリ」を作って、それを「ビジネスネットワーク化していく」という構想でスタートしました。

2012年の初期のランディングページ。

⸺Eightの「リリース後の反響」について教えてください。

塩見:
2012年にEightを公開すると、それなりに最初から反響はあって、様々なユーザーの方が使ってくれましたね。

評価されていたのは「データの正確さ」でした。名刺をスキャンするとOCRをかけるだけでなくて、運営側で人力でデータを補正していたのですが、これが良いユーザー体験につながっていたんです。

当時のOCRは精度が8割ほどでした。これは体感的には「ほぼ読めないね」というレベルです。OCRだけだと良い体験を提供できませんでした。

これを、人力で補正することで「データが非常に正確だ」という評価になり話題になって、その点をテレビなどでも取り上げていただきました。

当時の名刺管理サービスは、OCRで読ませて「ユーザーが自分で補正する」という形の有料のPCソフトが多かったんですよ。

でもEightでは「入力を無料で代行してくれる」ということで、体験的にも驚きが生まれて話題になったのかなと感じます。

⸺そこから「初期のユーザー」はどう獲得していったのでしょうか。

塩見:
まず、名刺領域の課題というのは「誰かがすごく困っている」というより「みんなが少しずつ困っている」という広く浅いタイプの課題でした。

職種や業界によって「課題の深さ」には差がなくて、強いていうなら30〜40代の名刺をたくさん持っているビジネスマンに課題がありました。

そこで着目したのは「スキャンのハードル」でした。当時のEightの名刺管理は名刺を1枚ずつ撮る必要があり、名刺帳に1,000枚溜まっている人にとってハードルが高かった。これをどうスキャンしてもらうのかを考えました。

利用ハードルを下げるために進めたのが「どこでもスキャン計画」という、様々な場所にスキャナーを設置するプロジェクトでした。

例えば、カフェやコワーキングスペースと提携して「Eightのスキャナー」を置いてもらって、名刺をスキャンできるスポットを増やしていったんです。

他には、スキャン業者と提携して、実際にユーザーの自宅まで伺って、名刺のスキャンを代行するサービスもはじめましたね。

また大学の前で、就活生に「名刺を作りませんか?」と声をかけて、無料で名刺を作成して、Eightでの名刺管理を広める取り組みも行いました。

ターゲット層の広がりに合わせて、アプリのデザインも変更しました。初期のデザインを捨てて、ニーズに合わせてデザインを変えていったんです。

⸺そこからはどう成長していったのでしょうか。

塩見:
我々としては「ビジネスネットワークを作ろう」と考えていたけど、出してみると「名刺を管理したい」というニーズの方が強かったんですね。

それで、想定よりも「名刺管理のニーズ」で伸びていき、年間30万人くらいずつユーザーが増えていって、約3年で100万人まで到達したんです。

このときにEightに「フィード機能」をつけました。100万人に届けばネットワーク効果でSNS的に伸びていくのではないかと。でも、これは実際は全然そうはなりませんでしたね。

そこから、フィード内に広告を入れたり、プレミアムサービスを作ったり、少しずつビジネスモデルを整えていって、今に至るという感じです。

2023年のリニューアルでは、そろそろ「デジタル名刺に置き換えていこう」ということで、スマホをかざすと名刺交換ができる機能も実装しました。

アプリのトップも「名刺交換の機能」にフォーカスしていて、デジタル名刺交換のアプリとして認知度を高める活動をしているところです。

⸺Eightの「マネタイズ」についてはどう考えていましたか?

塩見:
正直なところ、最初はユーザーが増えればなんとかなると思っていました。実際にはユーザーが増えても、いきなり儲かるものではありませんでした。

人力で名刺データを補正するなど、それなりに運用コストもかかっていたので、黒字化するまでは本当に苦労しましたね。

なので、広告・イベント・Eight Team・プレミアムサービス、様々なサービスで薄く広く収益化して「ようやく黒字化できた」という感覚です。

本来なら、1本でも強いマネタイズ方法が確立できたら良かったのですけど、そこはやっぱり甘くなくて。時間もかかりました。

マネタイズに貢献したなと思うのは、「安易にユーザーを増やさないこと」でした。Eightでは「自分の名刺」を撮影しないと登録も完了しません。

プロフィールを手入力できるような設計にせず、初期から登録時に「名刺」を必須にしていたことが、ユーザーの質の高さにつながりました。

登録ハードルを上げて、実名の価値のあるネットワークを構築したことが、マネタイズの基盤にもなったと考えています。

数を追い出すと誘惑に駆られやすくなります。例えば、ライトに使ってもらうユーザーを集める施策に走ったり。ここは我慢が必要でした。

成功施策①:ハードルの低い「利用シーン」でタッチ名刺交換が増加。

中西:
Eightでは「タッチ名刺交換」を普及するにあたり、これまで「スマホで名刺交換をしたことがない」という習慣が課題になっていました。

ユーザーさんの機能の評価は高くても、多くの方はスマホで名刺交換をしたことがないため、そこに心理的なハードルがあったんですね。

そこで、着目したのが「心理的ハードルの低い」利用シーンでした。具体的には「社内での名刺交換」であれば、気軽に試せるのではないかなと。

実際に、一部のヘビーユーザーの方は、社内の名刺交換にEightを使っているというデータもあったので、それも参考にして仮説を立てました。

施策としては「タッチ名刺交換チャレンジ」という、期間中に一定人数との名刺交換を行うとギフトカードがもらえる企画を行いました。

この企画の利用例として、「最初は社内の人と交換してみよう」「改めて同僚との挨拶に使ってみよう」と、社内でのユースケースを訴求したんですね。

すると企画前と比べると、約3倍の人が「タッチ名刺交換」を使ってくれて、その後の利用者も大幅に伸ばすことができました。

まだ体験したことのないものは、ハードルを下げて体験してもらい「利用イメージを形成してもらうこと」が大事なのだなと学びました。

成功施策②:閲覧数を通知したら「プロフィールの更新率」が改善。

中西:
Eightのデジタル名刺というのは「顔写真・職歴・学歴」などを更新すれば、常に正しい情報を閲覧できることが大きな強みです。

ただ、ユーザーの多くは「もらった名刺を保管するため」という理由で利用していて、プロフィールの更新に意識が向いていないことが課題でした。

これを解決するために考えたのが、ユーザーに「人から見られていること」を意識していただくという施策で、これが非常に上手くいきました。

具体的には、Eightユーザーにメールで「あなたのプロフィールは今週何人に見られました」という感じで、閲覧数を伝えるようにしたんですね。

すると、そこで初めて「自分のプロフィールは見られている」という感覚を持ってもらえて、プロフィールの更新率が一気に高まりました。

通常のメールと比べると、このメールの開封率は1.5倍ほど高く、メール内のプロフィール確認ボタンのクリック率も非常に高くなりました。

この施策のアイディアは、マーケティングチームで「人に見られることによる意識の変化」を議論していたところからはじまりました。

例えば、おしゃれやお化粧をするときに「人に見られるからやらなきゃな」と思ってやるケースって、日常の中ですごいあるよねと。

Eightでは「人に見られている感覚」があんまりないなと思ったので、これを応用したところ上手くいったという感じでした。

⸺Eightのチームで行っている「ユニークな取り組み」などがあれば教えてください。

越智:
Eightのアプリチームでは「モバレコ会」という、最新の技術を使ってEightに実験的に機能を実装してみる会を、約1年前から開催しています。

例えば、この新しい技術を使うと「Eightのカメラ撮影体験」がもっとよくなりますみたいな感じで、各エンジニアがテーマを決めて1日で機能を開発し、その日の夕方みんなに発表するんですね。

エンジニア視点では「ここいまいちだな」と普段思っていても、中々手をつけられないところを、自由な技術や発想で作ることができます。

そこで挙がってきた技術は、実際Eightに組み込んでいくこともありますし、より洗練させるために機能を磨いていくこともあります。

⸺定量的には測れないけれど「重視していること」を教えてください。

越智:
カメラの品質を上げたり、データ化の品質を上げることは、定量的には効果は測れないですが、名刺へのこだわりを捨てずに続けていますね。

例えば、名刺をスキャンした際の「ホワイトニング処理が綺麗になりました」といっても、名刺の取り込み枚数が増えるわけじゃないんですよ。

でも、Eightは名刺の束があって「邪魔だからデジタル化したい」という方も多くて、そこの満足度が高くないとEightを使い続けてくれないと思うので、ないがしろにはできないところかなと。

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【取材協力】
Sansan株式会社:https://jp.corp-sansan.com/ 
Eight:https://8card.net/ 
Sansan株式会社 塩見 賢治さん、中西 仁奈さん、越智 瑛甫さん

【告知】Eight(Sansan)さんでは、プロダクトデザイナーやプロダクトマネジャーを採用中とのこと。ご興味あれば下記サイトからご覧ください。

※ 以降は、+αの事例を4つほど『ここだけの話』として、note購読者向けにまとめています。EightのサブスクCVRなどを高めた改善、効果の高かった「似ているユーザー」を軸にした訴求と施策、Eight事業の失敗してしまった施策、などご興味あればご覧ください。

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