女性100人に話を聞き「顧客を憑依させる」ようにアプリをつくった。生理管理アプリの「ケアミー」が語る、使われ続けるプロダクトをつくるためのユーザーヒアリングのコツ
今年に公開された、生理管理アプリ「ケアミー 」さんにお話を伺いました。ダイジェスト版は漫画でまとめています。
・吉川さん ツイッター(@UG_0117)
・ケアミー ( https://www.careme.jp/ )
【ケアミーさんより告知】ケアミーのアプリ、男性の方もペアリング機能が便利ですので、ぜひ興味があれば使って見てくださいとのこと。
以下、note購読者向けに、インタビューの「テキスト+図解版」の詳細記事を配信しています。
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「ケアミー」について教えてください。
吉川:
ケアミーは、ユーザーに寄り添って、健康で幸せな毎日をおくれるように、という想いを込めた、生理管理アプリです。
起業した当初は「不妊治療の事業」を考えていたのですが、より大きな課題を解決したいと考えて、生理管理アプリを開発しました。
不妊治療している人の問題解決も大事だけど、そもそも若い頃から正しい知識を得られたほうが、困っている人を減らせるんじゃないかと。
今のところ、業務委託で生活費を稼ぎながら、ケアミーを開発しています。資金調達もしていなくて、自己資本だけでやっています。
原体験があったというよりは、たくさんの困っている人の声を聞くうちに、これは絶対にやるべきだと、使命感に駆られている感じです。
ケアミー は「100人に意見を聞きながら」開発運営しているそうですが、どんな感じでやっていますか?
吉川:
まずプロトタイプをつくって、10〜40代の女性に100回以上のヒアリングを重ねながら、僕とエンジニアの男性2人で開発しました。
ヒアリングについては、まず「今からアプリをつかってみて、思ったことを全て口に出して言ってください」と言ってスマホを渡すんですね。
それで、僕が隣に座らせてもらって、表情をみながらカメラで指先を撮る。目が泳いでいたら「なに考えてますか?」と聞いて思考を掘り出す。
例えば、「今なに考えてますか?」「このボタン何かなと思って…」「それは何だと思ったんですか?」みたいな感じですね。
そして、向かいにもう一人が座って、ユーザーさんの発言を記録していく。これを繰り返しまくったのですが、本当に学びがありました。
それで「うまく意見が拾えた」ということですか?
吉川:
そうです。ただ最初はうまくいかなかったんです。理由は「みんな黙って触ってしまうから」で、うまく意見を声に出してもらえなくて。
そこで、はじめる前に僕がデモンストレーションをして、どうやるのかを見せるようにしたら、みんな声に出してくれるようになりました。
例えば「へ〜ありがちなアイコンだ」「ん?押してみよう」「これキモい」みたいに、何でも言っていいんだとわかるようにした。
ヒアリングされるほうも難しいんです。なのでお手本を見せるようにして。そしたら上手くいくようになりました。
あと、今年に入ってから難しくなってしまいましたが、直接会ったほうが学ぶものは多いと感じました。触ってるときの指の動き、つかっている人の表情、これは対面じゃないと掴みにくいので。
ヒアリング時に「意識すべきこと」があれば知りたいです。
吉川:
複数ではなく一人ずつやること。複数人のグループで一緒にやると、他人の意見に流されやすいんです。とくに高校生は同調しやすくて。
例えば、テンションの高い子が「めっちゃいい!」というと、周りも「いいね〜」と言うけど、絶対にそう思ってない顔をしてる子がいたり。
なので、グループで参加してもらうときは、僕が一対一でやっている間に、もう一人に雑談系のヒアリングをしてもらったりしました。
実際にユーザーヒアリングから得られた洞察などを、ぜひ教えてもらえますか?
① 女子校より「共学の生徒」がユーザーとして適切な理由
吉川:
生理管理アプリって、女子校の学生よりも「共学の学生」のほうが、ずっと使ってもらえやすいんですよ。
なぜかというと、学生にヒアリングしたところ、共学では生理管理アプリの利用率が高く、女子高では利用率が低かったんですよね。
女子高では急に生理がきても「やば。誰かナプキン!」と言える環境も多いようで、管理の必要性を感じにくいそうなんです。
これが共学のほうだと、急に生理がきても大丈夫なように、ナプキンの準備をするなど、生理を管理している人が多い。
女子高に通っていた子で「共学の大学にいって、男子がいる環境になったら生理管理アプリが必要になった」と話している方もいました。
② メインカラーを「グリーン」にしている理由
吉川:
ケアミーでは、ヘルスケアを連想する「グリーン」を、メインカラーとして採用しています。これはアプリを開きやすくする目的もあって。
生理のアプリは、ピンクってイメージが浸透しているので、ピンクのアプリだと「人前では開きにくい」という声もあって。
例えば、会議中に「この日に全体合宿しよう」となっても、予定は空いているのはわかっても、生理の日と被っているかもしれない。
そうなると、人前でアプリを開きにくいからと、わざわざトイレまで行って生理の予定日を確認する、という方もいるんですね。
あと、最近は「女の子=ピンク」みたいな価値観はやめてほしいという意見も増えていて。中にはジェンダーマイノリティの方もいるわけです。
身体は女性だけど心は女の子ではない。でも女性というだけで「キラキラ・お花・ピンク」というデザインを押し付けられると。
そういう方にも、使ってもらいやすくなるように、という意図もあります。
③ イライラするのは「生理のせいだ」と納得したい
吉川:
生理アプリを開く、意外な理由として「イライラしてるのは生理のせいだ」と納得したいという意見がありました。
イライラして彼氏に当たってしまった。自分って性格が悪いなあ。そんなときに「生理前ですよ」という情報を見れば仕方ないかと納得できる。
なので、ケアミーでも生理前のモヤモヤ期に入ると「不調が出てきてます。自分のせいにしないでください」と気に掛けるようにしています。
④ 生理予定日を共有する「ペアリング機能」をつける理由
吉川:
ケアミーには、生理予定日を伝える「ペアリング機能」があります。これは夫婦やカップルはもちろん「親子で使いたい」という声もあって。
娘さんが「生理がきた」とお母さんに言わないんですって。でもそれだと、生理用品の買い足しや、体調が悪いのが生理のせいかもわからない。
シングルファザーのご家庭で、娘さんが「生理用品を買って」と言えずに、お小遣いで生理用品を買っている、という話も聞きました。
そんな話を聞いたら「これは解決しないといけない」と。それで登録していればLINEに通知される、ペアリング機能を実装しました。
⑤ 生活者に寄り添わないといけない
吉川:
ある方が、学校で習った「月経」と自分が付き合っている「生理」はなんか違うと言っていたんですよね。それを聞いてハッとしたんです。
つまりその方は、生活の中で起こること全てを「生理」と呼んでいて。子宮から経血がでることは習ったけど、生理は習っていないと。
例えば、生理前のイライラって「PMS」という、ホルモンバランスが変わることで起こる症状なのですが、そういうのも知らなかったと。
だから、医学的に正しいことだけではなく、ライフスタイルに入り込んで、生活者に関係ある情報を伝えていかないといけないなと。
たくさんの「声」を拾いながら開発しているんですね。
吉川:
顧客開発チームと、製品開発チームに分かれてやっています。まず僕がなるべく「顧客に憑依したような状態」になるようにしていて。
様々なユーザー層の気持ちを理解して、このパターンのユーザーならこう反応するよね、というのを出来る限り理解していく。
そして、エンジニアとデザイナーが「どういうときにこの課題は発生しますか?」「この機能で解決できますか?」と対話しながら実装しています。
どうしてそこまでして「ユーザーの声」を拾う必要があると考えているのでしょうか?
吉川:
僕らのスタンスとしては、ユーザーのイシュー(課題)にひたすら向き合おう、っていう話をしていて。
なぜなら、イシューを解決できていないサービスは「使われ続けない」からなんですよね。これに尽きると考えています。
大きくファイナンスに成功して、マーケティングをバーンと打ち、ユーザー数が伸びたとしても、つかわれ続けていないものってありますよね。
僕らは、自己資金でやっているし急ぐ必要もない、価値あるものをつくれば絶対にユーザーがついてくる。だからそれをやり続けようと。
そうなると、ひたすら「ユーザーの声」を聴くしかない。これだけヒアリングしても、未だにラーニングの日々、まだまだ良くしていきたいです。
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