3,000万円の調達資金が尽きて会社解散。チャット小説アプリ「CHAT NOVEL」の社長に聞く、YouTubeで伸びた「ホラー広告」と、順調だから陥った「ジャンル天井のワナ」
チャット小説アプリの「CHAT NOVEL」さんにお話を伺いました。
※ 株式会社CHAT NOVEL 代表取締役 舘俊男さん
「CHAT NOVEL」の運営までの経緯を教えてください。
もともと、大学生のときに起業して、僕とCTOとインターンの2〜3名で、Q&Aアプリなどをつくったものの、サービスは不発に終わりました。
そこからnewn(stand.fmを運営していた会社)という会社から「CHAT NOVEL」を譲渡いただいて、運営することになります。
(初期の数値は良かったが、放置状態になってたため、譲渡してもらった)
そこから、2019年12月に3,000万円ほど資金調達をして、編集者を2人採用して5人で「CHAT NOVEL」を運営していました。
現在「CHAT NOVEL」は、35〜40万ダウンロードされていて、チャット小説が700作品ほど掲載されています。
「CHAT NOVEL」はどんなビジネスモデルですか?
サブスクで「読み放題」になるモデルで、売上のほとんどはサブスクです。課金の仕組みとしては、チャット小説のストーリーが「いい感じ」になったところで、一定の確率で「課金訴求」を出しています。
場面が転換したり、登場人物が死んだり、刺激的などんでん返しがあるところがポイントとしては強いですね。例えるなら「魔法少女まどか マギカ」でいうと3話の終わりに「ここからは課金してね」と出てくる感じです。
CHAT NOVELで、最も課金につながったのは「アヤメ」という作品で、ここから2,000〜3,000課金くらい出ていました。
どのようにユーザー数を伸ばしていましたか?
多くの流入はYouTube広告からでしたね。とくに「ホラー訴求」の広告は、YouTubeのUIとあまりに噛み合っていて、反響がとてもよかったです。
YouTubeの視聴者がみるのは「広告の最初の6秒」です。そうなると、ホラーは圧倒的に強くて。なぜなら短時間で「怖くする」というのは簡単だから。逆に、恋愛感情を6秒で揺さぶるって難しい。
人間が「怖いと面白い」の区別がつきにくいのもあるかなと。怖ければ面白いと錯覚しやすくて、誰でも「怖いものは怖い」から再現性が高い。
というのもあって、獲得コストも低く抑えられて、サブスクにもつながる。ホラーはチャット小説の「キラーコンテンツ」だったんです。
※ ホラーの広告は「チャット小説を動画で流す」簡易的なフォーマットでも効果が高かった(実際の動画)
「ホラー」を起点に伸ばしていたんですね。
そうですね。ホラーの広告をひたすら回し続けて、YouTube広告をメインに月40〜50万円くらい出稿していました。
広告コストでいうと、1ダウンロードあたり平均70円で集客できていて、そこから2〜3%がサブスクに登録してくれました。一時期は1ダウンロード20円という数値も出ていましたね。
ちなみに、恋愛ジャンルの広告も試しましたが、あまり数値がよくなくて、YouTube広告に全然表示されないレベルでした。
ここまで聞くと「順調に伸ばせている」ように感じますが、なにが「うまくいかなかった」のでしょうか?
逆に「ホラー」があまりに獲得しやすかったことで、意思決定を「ホラー」に寄せすぎてしまったんですね。
ウケているのは「ホラー」で、短期で数値を合わせるためにも「ホラー」。でもそれを続けてしまうと、売上のアップサイドは見えなくなります。
CHAT NOVELの月売上は100万円程度で、人件費など含めて月200〜300万円かかっていたので、月に200万円ほどお金が出ていっていました。そのうち2019年に調達した3,000万円が尽きてきてしまった。
そこから、資金調達にも動いたのですが、売上の成長が見込めないと、次の資金調達はできません。最終的には、資金が尽きてしまったことで、会社を解散するという判断になりました。
今振り返ると「何をすればよかった」と感じますか?
長期でCHAT NOVELを伸ばすためには「ホラー以外」にジャンルを広げないといけなかったと感じます。そのジレンマから抜け出せなかったのが、一番後悔しているところです。
例えば、乙女ゲームや謎解きゲームのような体験を、チャット小説の形式で提供していくなど、新しいジャンルを開拓する必要がありました。最初からもっと「市場のあるジャンル」を考えて運営すべきでしたね。
ほかに「誤算だったところ」があれば教えてください。
チャット小説の「バイラル性」が、思った以上に低かったところです。
つまり、コンテンツを作り続ければ、そのうち「バズる作品」が出てきて、コンテンツがユーザーを連れてきてくれると考えていました。しかし、実際にそれは起こりませんでした。
なぜかというと、チャット小説は「画面のUI」によって、没入感を得られるのがおもしろさで、スクショで切り出すと伝わらないためです。
逆にいうと、漫画はバイラル性が高いですよね。情報量も多くてビジュアルでわかりやすく、切り取られてもSNSで広がりやすいためです。
なるほど。そういう経緯で「会社解散」になったのですね。noteで「アプリの事業譲渡」についても募集していましたが、反響はどうでしたか?
はい。事業譲渡先が見つかるかもと思い、noteに今の状況を書いたところ、約10社からお問い合わせがありました。検討ベースだと5社です。
一定の売上はあったので、事業譲渡としては成立するとは思ったのですが、想像よりもたくさんのご連絡いただけました。
今回はそのうちの1社さんに、譲渡させていただく想定で進行しています。(記事公開日時点)
数千万円レベルの価値がつく事業ではないので、自分で営業するとなると、営業コストと釣り合わないかなとは思ったのですが、noteを書いたことから話が進んだのはよかったです。
※ 会社の解散と「事業譲渡」について綴ったnote。
https://note.com/noritama24/n/nb05520da8c09
チャット小説アプリを運営していて「印象的だったこと」があれば教えてください。
バッドエンド作品は、単体だと反応が悪くなりがちなのですが、「バッドエンド特集」としてまとめると、読んでもらいやすかったことです。
なぜかというと、最初に「結末はバッドエンドだ」とわかるようにすると、「バッドエンドを読みたい層」が読んでくれるからなんですね。
読み進めたら「結末がバッドエンドだった」というのと、最初から「バッドエンドだとわかって読む」は、読む層が変わるのだと思います。
感覚的には、YouTubeの「スカッと系のマンガ動画」に似ていて、「この人最後はひどい目に合うんだ」と、わかった状態で読みたいのかなと。
それで、想像通りの結末をみて「ストレス解消」をする。自分より不幸な人や哀れな人をみたい、という欲求もあるのかなと思います。
CHAT NOVEL:https://chatnovel.jp/
CHAT NOVEL 舘さん(@noritama241)
※ 以降は、マニアックな話をnote購読者向けにまとめています。KPI改善に効いた「トップの編成」の話、チャット小説の製作コストや作り方のコツ、などご興味あればぜひご覧ください。
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