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残金40万円からSNSアプリ200個つくり、ユーザー450万人のSNSへ。通話コミュニティアプリ「Yay!」の成長の裏側と、SNSの成否を分ける「スロット理論」

通話コミュニティアプリの「Yay!」さんを取材しました。

株式会社ナナメウエ 代表取締役 石濵 嵩博さん

「Yay!(イェイ)」について教えてください。

石濵:
趣味や話題をきっかけにつながれる、通話コミュニティアプリです。登録者数は450万人を超えていて、24歳以下が85%を占めています。

とにかく「素を出せる」というのを意識していて、本当の自分をさらけ出せる場所、というニュアンスを込めてつくっています。

使い方としては、ツイッターのようにタイムラインを見たり、誰かと通話やグループ通話をしたり、好きなサークルで話したり、という感じですね。

いま「Yay!」が伸びている背景を教えてください。

石濵:
僕らは「メディア化」と呼ぶのですけど、今って既存SNSが前に比べると、めっちゃ投稿しづらくなっていて、基本は「見るだけ」になっている

僕も「土日に牧場にいきました。羊とたわむれた」という投稿を、Facebookには上げづらいですね。投資家やほかの起業家の友達に「遊んでいるな」と思われたくないので。

高校生とかでも、「自撮りをあげにくい」と思っている人がいる。

理由は比べられてしまうから。可愛い子は1,000いいねつくけど、自分には10しかつかない。すぐにわかって、劣等感が刺激されてしまう

若い世代って、みんな「そういう劣等感」を抱えていて、既存SNSに対してなんか気まずいな、なんか息苦しいなと感じている。

実際、インスタやFacebookの投稿数は、緩やかに落ちてきている。ユーザー数は減っていない。でも、投稿数が落ちているわけです。

なるほど、確かにそうかもしれません。

石濵:
それで、この「投稿数」って先行指標なので、いずれどん詰まりになってくるんですよ。確実に。この息苦しさはもうずっと続いていく。

だから、Yay!って「既存のSNSのアンチテーゼ」なんです。みんなが承認をもらえなくなったので、その「揺り戻し」としてYay!が伸びている。

SNSって「誰かからの反応」があるから気持ち良い。そもそもSNSをはじめて、僕たちが楽しい!ってなった理由って、何気ない日常をアップしたときに、それに反応があったからなんですよね。

投稿して「いいね」と反応をもらったり、「わたしも行きたい!」と言ってもらえたほうが、楽しさが10倍違うよなと思うんです。

このまま行くと、SNSはどうなっていくのでしょう。

石濵:
この流れが行き着く先は、リアルな人間関係を取っ払い、なりたい自分で、バーチャル上に居場所をつくれる世界なんですよ。

これが「メタバース」とも呼ばれています。

Yay!も文脈はこれと同じで、インフルエンサーを生まない、フラットな構造であることを意味して、「アンチインフルエンサー的なプラットフォーム」と言っています。

これは、階層構造をつくらない、みんなが自己表現をしやすいプラットフォームなんです。

「おはよう」といえば「おはよう」と返ってくるし、食べかけの餃子の写真をあげてもOK、フォロワーが10万人の人なんて滅多にいない。

投稿ハードルは死ぬほど下げるけど、反応はめちゃくる。そこにフォーカスすることで、多くの人が承認をもらえる設計にしているんです。

ツイッターやインスタは、もはや「メディア」なんですよ。Yay!はメディア化をしません。ただのSNS。むしろこれこそがSNSなんです。

Yay!のようなSNSをつくるときに「ここは意識すべき」と思うポイントを教えてください。

石濵:
僕らは「スロット理論」と呼んでいるのですが、スロットに入らないとソーシャルは確実に死ぬ、という法則があると考えていて。

スロットとは何かというと、人って誰かを思い浮かべて「この人と話そう」と思ったときに、連絡ツールも一緒に思い浮かべるんですよね。

○○さんに連絡するならインスタ、お母さんに連絡するならLINEみたいに。その連絡ツールに入ることを「スロット」と呼んでいます。

そして、スロットは同じ人と繋がるのに「最大2つ」なんです。基本は1つと言ってもいい。とにかく2つまでなんです。

つまり、誰かを思い浮かべたときの「2つのスロット」を取り合っている。

スロットに入れば、長期で継続してつかわれるので、積み上がり続ける。これが、ソーシャルをつくるときのエッセンスだと考えています。

長期で継続しないと、アクティブユーザーが積み上がらないから、生き残ることができないと。

石濵:
そうですね。バズったサービスはいっぱいあるけど、誰かと話したいと思ったときに「スロット」に入らないと、継続してつかわれないんですよ。

例えば、Clubhouseはツールとしてはつかわれます。講演会やりますとか。でも連絡する手段は、結局ツイッターかFacebookになってしまう。

つまり、ソーシャルには「ユニークなソーシャルグラフ」が絶対に必要で、言い換えると「ならではのコミュニティ」をつくらないといけない。

そうしないと、コミュニティの誰かを想起したときに、つかわれるシーンが存在し得ないことになってしまうから。

なので、Yay!は「スロット」を取ることを意識して、Yay!の中で「人と人」をマッチングすることで、誰かを思い浮かべたときに、必ずスロットに入るような設計にしていますね。

例えば、Yay!で仲良くなったAさんと、後日「また話したい」と思ったときに想起されるアプリがYay!ですよね。Yay!でしか繋がっていないので。

だから長期で継続してくれる。ここのストラクチャーには、めっちゃこだわっていますね。

スロットを「書き換える」というのは難しいですか?

石濵:
難しいと思います。僕も「母親との連絡ならLINE」と決まっていて。今からそれを上書きするって、めっちゃ難しいんですよ。

なぜなら、リアルな人間関係(リアルグラフ)の「スロット」は、もう大抵2つ埋まってしまっているからです。

だから、これから流行り得る「メタバースや新規のSNS」は、バーチャルの関係性(バーチャルグラフ)以外は、ありえないんですよ。

Yay!での関係性は、リア友よりはバーチャルな関係性が多いので、仲良くなったときに、また「その人と話そう」と思ったらYay!にくるんです。

Yay! は「どんな過程」で生まれたのでしょうか?

石濵:
初期に出した「SlideStory」は、土日しかつかわれにくいのが課題でした。お出かけに行ったときにしか、スライドショーをつくらないからです。

次に、Vineのような動画SNS「Lily」を出したのですが、これもうまくいかなったですね。半年やってもDAUが1,000人でした。

そこから200アプリを出す中で、学生向けの「ひま部」が公開から1週間でDAU 1,000人を超えたので、そっちにシフトするようになりました。

学生向けで伸びていた「ひま部」から、「Yay!」に変更した理由はなんだったのでしょう?

石濵:
初期のFacebookがそうだったように、どこかのタイミングで間口の小さい「学生専用」の冠を外していく必要がありました。

ひま部は「学生専用」だったので、社会人ユーザーを凍結していたんです。なので、その状態から「全年齢にします」と方針を変えると、ユーザーから大きな反感を買ってしまいます。

それで、ギリギリまで「ひま部」のまま、学生制限をなくすことも考えたのですけど、新アプリとして「Yay!」を出すことにしました。

SNSを200アプリつくるというのも、簡単にできないと思うのですが、なぜそこまで出来たのでしょう?

石濵:
実はそのときに社長が変わって、僕が社長になったのですけど、その時点で後がなかったんです。会社がなくなりそうだったんですね。

お金も全然なくて、当時は銀行の残高も40万円くらいになっていて、もう来月には会社を畳まないといけないよね、という絶望的な状況でした。

20日後には、給料が支払えなくなる状況で、投資家を見つけて交渉したり、銀行からお金を借りてきたり、とにかく必死だったんです。

なので、やれることは全部やろうという中で、できることはアプリをつくることだったので、朝4時くらいまでアプリを開発していましたね。

SNSを運営してみて、「ここは大変だったけど、こうしたら解決できた」、というものはありますか?

石濵:
Yay!のようなアプリの、投稿コンテンツのチェックって、難しいんですよ。不適切な画像や動画をアップする人が、どうしてもいるためです。

ただ放置してしまうと、コミュニティが腐っていく。不快に思って誰もつかわなくなってしまう。これを僕らがどう解決したかです。

最初は何をしたかというと、365日24時間、社員がチェックしていました。でもずっと続けるのは難しくて、専門の企業に頼もうとしたんですよ。

そしたら「月700万円かかります」という見積りが出ました。当時はお金もなかったので、支払える金額ではありませんでした。

次に、僕らがやったのは、CTOがタイ人だったのですけど、タイに子会社をつくったことでした。

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【取材協力】
株式会社ナナメウエ:https://nanameue.jp/ja 
Yay!:https://yay.space/ 
CEO 石濵さん:@takachan114
広報/マーケ 井上さん:@tomoyasu_inoue

【告知】ナナメウエさんでは、Yay! x eSports (Apex)の「WEBドラマ」も、12/24から公開予定とのこと。ご興味ある方はぜひご覧ください。

※ 以降は、マニアックな事例を5つほどnote 購読者向けにまとめています。DAUに数万人のプラス効果があった企画、投稿などの心理ハードルを下げるための工夫、広告効果の高かった媒体、などご興味あればご覧ください。

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