目標を数字で追わない「体験向上チーム」で目に見えない満足度を改善。会員120万人の「Qiita」が語る、プロダクトの成長サイクルを回した施策。
会員数が120万人を突破した「Qiita」さんを取材しました。
──「Qiita」について教えてください。
柴田:
「Qiita」は、エンジニアに関する知識を記録・共有するためのサービスで、日本最大級のエンジニアコミュニティにもなっています。
会員数としては120万人を超えていて、月間のPV数は4,500万、月間のUU数は650万人。アクセス数の70〜80%は「検索流入」です。
収益モデルとしては広告がメインで、詳しい業績は非公開ですが、売上や会員数は順調に伸びています。
サイトのアクセス数は「平日の朝8時〜19時」がピークで、逆に夜間や休日はめっちゃ落ち着きますね。年末年始やお盆も同様です。
これは、開発のお仕事中に「困ったら調べたり閲覧をする」というアクションとPVが、明確に連動しているのだと考えています。
──「Qiita」がどのように成長してきたのか教えてください。
柴田:
Qiitaというサービスは、2011年に創業者の海野が開発したサービスで、実は公開された当初は「Q&Aサービス」だったんですよ。
サービスを開始すると「質問の数」は少なかったのですが、回答率は非常に高かったんです。そこに着目して「投稿型のサービス」になっていきます。
ここから読み取れたのは、プログラマーたちは「潜在的に発信できる情報」を実はたくさん持っているのではないか、という仮説でした。
質問が起点だとハードルが高かったため「情報発信しやすい場所をつくる」という方向性で、Qiitaは投稿コンテンツを軸に成長していきます。
2017年には、エイチームがQiitaを買収(取得額 約14億円)することになり、2019年に創業者が退任したタイミングで、僕が代表に就任しました。
自分が代表になってからは、Qiitaにあった良いところはそのまま残しつつ、良い方向に伸ばせると感じたところは改善していきました。
Qiitaの成長サイクルについて
──Qiitaではどのようにプロダクトを運営していますか?
柴田:
Qiitaはユーザーの記事投稿によって、成り立っているサービスであるため、ユーザー満足度をとても大切にしています。
社内では「ハーベストループ」と呼んでいるのですが、成長サイクルを図にしたものを軸に、Qiitaの成長に向かって運営しています。
例えば「セレクション増加」というのは、記事の種類のことです。いろんな記事が揃っていれば、読み手の体験が向上してPVも伸びます。
そして「生産者体験の向上」というのは、記事を書く人の体験のことです。記事が読まれたりいいねがもらえると「また記事を書こう」となります。
そこに紐づく指標も細かくあって。例えば「トラフィック」なら、PVや1UUあたりの回遊数などに分解して追っていますね。
記事を書いて投稿するって、Qiitaのサービス的にめちゃくちゃ大事だけど、ユーザーにとっては労力も時間もかかります。
月間のユニークユーザーは650万人いる中で、記事を投稿するユーザーの方は月間で1万人前後。なので「書き手の体験」を上げることも大切です。
例えば、ユーザーインタビューで「書き手のモチベーション」をヒアリングすると、初心者の方は「文章を書くこと」にハードルを感じていました。
そこで、「文章を書くハードル」を下げるために、文法の誤りや誤字をハイライトするAI機能を実装したりもしましたね。
「体験向上に特化したチーム」をつくった話
──柴田さんが代表になってからのQiitaで「印象的だった出来事」を挙げるならどれでしょう?
柴田:
代表に就任した当初2020年に、ユーザーが「Qiitaで閲覧・投稿した記事の傾向」を、デフォルトで公開される形でリリースした結果、ユーザーさんから猛反発を受けてSNSで炎上してしまったことです。
これは完全に僕らの至らなさが原因です。それからは、挑戦的な機能を実装するときには、クローズドベータに任意で参加いただいて検討する仕組みをつくるなど、ユーザー体験を大事にするようになりました。
また、2021年には「CX向上グループ」という、売上や指標などの定量的な目標を持たずに、ユーザー体験の向上に特化するチームもつくりました。
開発チームが1つだと、短期的な売上や指標に捉われてしまって、「今やらないといけないこと」ばかりに追われがちです。
すると、ユーザー体験的に「これをやれば絶対に良くなるのに、定量的にはインパクトを測れない施策」ってめちゃくちゃ後回しになるんですよ。
それで、数字は一旦無視して「ユーザー体験」にとって良いことをひたすらやるチームをつくったんです。
例えば、記事の投稿後には、画面に「投稿ありがとうございました」など、運営からのお礼メッセージを出すように変更しました。
これは数字では効果検証できません。でもユーザー体験にはきっと貢献するはずですよね。こういうことをひたすら続ける感じです。
レストランで例えるなら「なぜリピートするのか?」を調べたら、「料理が美味しかった」はあっても、「挨拶が気持ちよかった」「トイレが綺麗だった」という意見はあまり出てこないと思うんですよ。
でも、それは恐らく「満足度やリピート率」にも効いているはず。逆に売上や客単価だけを追い求めても、限界が来るってことだと思います。
Qiitaでも、こうした取り組みを続けた結果として、細かいユーザー体験や満足度をかなり高められたと考えています。
要望や声に「オープンな場」で回答する理由
──ユーザー体験を高める取り組みで「本当にこれはやってよかった」と感じるものはなんですか?
柴田:
ユーザーからの要望や質問などにオープンに回答する「Qiita Discussions」という場をつくったことは、色々な意味でよかったと感じています。
主なメリットは、オープンな場でディスカッションを続けて、運営の透明性を高めることで「ユーザーからの信頼感」を得られやすくなること。
もうひとつ面白いのは、この形式だと「運営:ユーザー」という『1対1』ではなくて、「運営:ユーザーコミュニティ」と『1対多』の構造になるので、議論が発展しやすくなることなんですよ。
議論が深まるメリットは、運営が想定していなかった「第三の選択肢」が生まれやすくなることです。
例えば、運営が「A」という意見を、あるユーザーが「B」という反対意見を持っていたときに、別のユーザーが「C」という解決策をもたらしてくれる可能性があるわけです。これはクローズドな対応では生まれません。
あと、オープンな場で「議論しながらつくった機能」って、リリースしたときにユーザーさんがSNSでもシェアしてくれたりもします。
そういう風に、ある意味ユーザーの方を巻き込みながら進められることも、オープン型の良いところじゃないかなと。
「いいね」 VS 「LGTM」ボタン
──Qiitaで「失敗してしまった事例」があれば教えてください。
柴田:
Qiitaで、記事のボタンを「いいね」から「LGTM」に変えたことです。これは数字的には「押された数」などは変わらなかったんですよ。
ただ、ユーザーからは不評の声が挙がりました。例えば「わかりにくい」「レビューを承認している感覚になって押しづらい」といったものです。
僕らの意図としては、「エンジニアらしいサービス体験」をより感じてもらいたいと考えたのですが、これは勝手な押し付けだったなと。
ちなみに、「LGTM」とは「Looks Good To Me」の略で、コードレビューをするときに「いい感じです」とか「レビューOKです」と承認する単語です。
数字が動かなかったためすぐ戻さなかったのですが、約2年後に「いいね」に戻しました。そのときも指標に大きな変化はありませんでしたね。
戻した意図としては「様々な種類の記事を揃えていこう」という中で、別に運営が「いいね」の定義なんか決めなくても良いよねと。
当然、素晴らしい記事という「いいね」もあるだろうし、アウトプット頑張ったねという「いいね」もある。となると「LGTM」は使いにくい。
教訓としては、運営の主観で「○○らしい体験」をユーザーに押し付けても意味がなかったなと。ユーザーは何も得られていないので。
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【取材協力】
Qiita株式会社:https://corp.qiita.com/
Qiita:https://qiita.com/
Qiita株式会社 柴田 健介さん
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