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上手くなるより「下手でも上手くいくコト」を探す。年商60億円の「北欧、暮らしの道具店」のクラシコムが続ける「新しい取り組み」を成功に導くためのコツ。

「北欧、暮らしの道具店」のクラシコムさんを取材しました。

株式会社クラシコム 代表取締役 青木耕平さん

「北欧、暮らしの道具店」について教えてください

青木:
僕らが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、顧客との関係性をライフカルチャー(世界観)が支える、ユニークなプラットフォームです。

2023年7月期の売上は60億円超、年間の購入者は約20万人となっていて、商品売上の半分以上は「オリジナルブランド」が占めています。

ミッションは「フィットする暮らし、つくろう。」です。これは「自分の生き方を自分らしいと感じ、満足できること」だと捉えています。

商品売上の半分以上は「オリジナルブランド」とのことですが、オリジナル商品はどのように作っていますか?

青木:
新しいカテゴリーの場合には、最初は「コンテンツ」から出すんですよ。例えば、アパレルの読み物を出して「お客様の興味や関心や悩み」はどこにあるのかコンテンツを通して反応を見ていく。すると「仮説」が生まれます。

反応から生まれた「こういう商品なら求められているのかも?」という仮説を元に商品を作ったり、ときには「仕入れの商品」を投入して検証します。このプロセスを挟むと、オリジナル商品をつくる前に「大体の当たりどころ」がわかってきます。

そうした過程から得られた「ここは当たるね、この周辺はぴったりの商品がなく空いてるね」という要素をオリジナル商品に落とし込んでいく感じです。

オリジナル商品の「ヒット率」を高める秘訣があるとしたら、どのようなものを挙げますか?

青木:
ひとつは、スタッフの約8割が「元お客様」であることです。

クラシコムでは、基本は「北欧、暮らしの道具店」での採用募集を行うのですが、多いときには年間1,000人の応募があり「100倍以上の倍率」になることもあります。ですから、応募者も社員も「元お客様」ばかりなんです。

それで、顧客と趣味嗜好の近い社員が、高い解像度でニーズを理解しながら商品開発を行っていて。つまり「インナー」が企画しているんですよ。

商品企画で一番重視しているのも「個人的な動機があるか」なんです。売れ筋とかではなくて「自分の主観」をすごく大事にしています。

主観というのは「自分の想い」もそうですが、自分の目から見た他者とか、その年齢や立場になったらどう思うかを想像することも含んでいて。そこに確かに「共感できる動機」が感じられるかを大切にします。

例えば「このファッションに興味あるけど、上手に着こなせる自信ないな」みたいな、自分の動機から企画のタネを見つけることも多いです。

もうひとつは、商品の種類が少ないので、想定と少し違う動きになっても、値下げだけに頼らずに手間をかけて売っていけるんですね。

なので、お客様が求めるものだけを企画して手間をかけて売れる。これが「定価消化率95%以上」を続けられる理由だとも考えています。

「北欧、暮らしの道具店」で、新しい取り組みを行うときに「これを強く意識する」というポイントを教えてください。

青木:
新しいことをはじめるときに意識するのは「下手なのに上手くいくコト」を徹底的に探すことなんです。

上手くいかないコトがあると「下手だからだ。どうしたら上手くなれる?」と課題を設定して取り組みますよね。これって典型的な失敗パターンです。

だって「上手くならないと成功しない」ってことだから。ではなくて最初は「下手なのに上手くいくコト」を探す。僕らも毎回これなんですよ。

例えば、「北欧のヴィンテージ品」をECサイトに並べただけで開店初日に6割も売れた。2014年ごろ社員がインスタを試してみて気づいたら売上の8%がインスタ経由になった。これが「下手なのに上手くいく状態」です。

それって「伸び代がある」ってことだしワクワクします。継続もしやすい。まだ「絞られていない雑巾」を探して絞る。そういう感覚です。

なので、新規事業をやるときは「頑張りすぎないで」と言います。頑張ってしまったら仮説が当たっているか判断できないからです。

逆算で「これをやろう」というよりは、大して準備せずに色々やってみる。ただ、お客様をガッカリさせないことだけは気を付けていますね。

ライフカルチャープラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」のイメージを「温泉地のイラスト」で例える理由を教えてください。

青木:
温泉に例えることを着想したのは、渋谷PARCOのポケモンセンターに行ったときに、これって「現代の観光業なんだな」と解釈したときでした。

コロナ禍に入った2020年2月、渋谷PARCOに行くと多くのアパレルショップにはお客さんがあまりいなかったのですが、ポケモンセンターにはたくさんお客さんがいたんです。整理券を配っているほどでした。

商品の品質には大差ないはずなのに、なぜここまで集客に差がつくのかなと考えると、自分たちで「世界観を持っているから」ではないかと。

世界観って人々の頭の中にある「観光地」のようなものだと思うんですよ。つまり、ポケモンは「自分達の掘った温泉地」の周りで商売をしている。

一方で、アパレルの多くが流行に左右されるのは、他の人が掘った温泉地(例:パリコレクション)で商売をしているからではないかと。

他人が開発した観光地に、お土産やさんを出そうとすると、隣の人と競争をすることになります。観光地が廃れたら集客ができなくなります。

この構造を見て「現代の観光業だ」と思ったんです。言ってみれば「温泉」を自分たちで掘っている。これってものすごく強いんじゃないか。

世界観を「観光地」に例えると、その周りには2つのニーズが生まれます。

1つは、観光地の周りには「飲食店や旅館」のような、滞在ニーズに応えるサービスに機会が生まれます。そこに「長く滞在したい」と思うからです。

もう1つは、その観光地には「お土産のニーズ」も生まれます。ステキな空間で過ごした「体験や思い出を家に持って帰りたい」と思うからです。

ポケモンでいうと、魅力的な世界観に滞在するための「ゲーム」があって、体験をリアルの世界に持ち帰るお土産として「グッズ」がある。

僕らのビジネスも同じです。世界観に浸ってもらう「コンテンツ」があり、世界観を持ち帰ってもらうお土産としての「商品」がある。

温泉地が魅力的であれば、SNSやアプリや動画といった「エンゲージメントチャネル」と呼んでいる、様々な交通機関から人がやってきます。

温泉地を開発するように、「北欧、暮らしの道具店」というライフカルチャープラットフォームの上に、多様な事業を展開していこうという感覚です。

「北欧、暮らしの道具店」では、アプリを紹介するメルマガで「ABテスト」を実施している。その中で効果的だった2つの施策を紹介。

① コンパクト VS 商品紹介

メルマガの文章を「コンパクトver」と「商品紹介ver」で検証したところ、コンパクトverのほうがアプリのダウンロード率が1.6倍高かった。

考えられる理由は、メインビジュアルにスマホがあると「アプリの話だ」とわかりやすく伝わったため。

また、商品画像をクリックしたら「商品の詳細が見られる」と期待していた方をガッカリさせてしまった可能性も。

② コンパクト VS 超コンパクト

元のテストで「スマホアプリであること」を明確に伝えたほうが良いとわかったため、別の角度から検証することに。

メルマガの文章を「コンパクトver」と「超コンパクトver」で検証すると、コンパクトverのほうがアプリのダウンロード率が1.9倍高かった。

情報量を減らしすぎても、あまり反応率が良くないことがわかった。

1、立ち上げ期

青木:
クラシコムは2006年に兄妹で創業した会社です。事業に失敗して残資金で「最後の社員旅行」に出かけたことが、「北欧、暮らしの道具店」の誕生につながりました。

当時は、古本を仕入れて売る「せどり」で食いつないでいたので、せっかくなら北欧の雑貨を買い付けて、日本の骨董市で売ろうと考えたんですね。

しかし、日本に帰ってくると梱包が不十分で、半数以上の雑貨が割れてしまっていました。そこで着目したのが「ECサイトでの販売」でした。

素人がつくった「ボロボロのEC」に、仕入れたヴィンテージ品を並べて、2007年に「北欧、暮らしの道具店」をオープンしました。

蓋を開けてみると、初日に60%の商品が売れて「これはイケるかも」と思ったんです。なぜなら、供給があれば売れるとわかったからです。

そこで「仕入れ」を仕組み化しました。10人弱の北欧にいる素人のバイヤーと提携して、日本から北欧のアイテムを仕入れて売りました。

この仕組みで売上が成長して、オープン約半年で月商100万円になりました。

初期はメルマガでの「先行販売」が成功。会員は限定価格で先行購入できるようにした。

2、ECのメディア化

青木:
2008年には、北欧の「現行品」の取り扱いをはじめて、大手のECモールや広告の活用で売上を伸ばしたのですが、粗利が減ったのと販管費が膨らんだことで利益が伸びていないことに気づきます。

そこで2010年頃に、販促コストを減らし「利益を残しながら成長する方法」として、雑誌とECの中間のような方向性の「メディア化」を進めました。

モールは縮小して、自社サイトの「メディア化」に投資することで、2012年の年商は2.1億円にまで拡大。利益もちゃんと増加しました。

こうした発見も「メディア化」の足がかりになった。

3、ライフカルチャープラットフォームへ

青木:
2011年頃から「スマホとSNSの波」が来て、コンテンツ需要が高まったSNSに「雑誌的なコンテンツ」を投稿すると、さらに成長しました。

2014年にインスタを開設すると、気づいたときには「インスタ経由の売上」が全体の8%を占めるようにもなっていましたね。

この波に乗って、2013年には年商が3.2億円、2014年には5.1億円、2015年には8.6億円と拡大していきました。

そこから、2015年にオリジナル商品に展開。2018年から動画などコンテンツへの投資を積極化。2020年にはスマホアプリを公開しました。

2022年には上場して、2023年には「ライフカルチャープラットフォーム」として年商60億円まで到達しています。

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【取材協力】
株式会社クラシコム:https://kurashi.com/
北欧、暮らしの道具店:https://hokuohkurashi.com/
代表の青木耕平さん:@kohei_a

【告知】300万ダウンロードを突破した「北欧、暮らしの道具店」のアプリもぜひ興味を持った方は使ってみてください。

※ 以降は「+αのトピックス」を5つほどnote購読者向けにまとめています。アプリとWebのエンゲージメントの違い、新しいコトを行うときの3つのステップ、通販で成果の出やすいカテゴリ、などご興味あればご覧ください。

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