200万人が依頼する「くらしのマーケット」に聞く、0から地道にマーケットプレイスを10年間で成長させた方法。「ネットワーク効果」を強くするための3つのポイント。
くらしのマーケットさんを取材しました。
「くらしのマーケット」について
浜野:
くらしのマーケットは、ハウスクリーニングや引越しなど、300種類以上の出張訪問サービスをオンライン予約できる、インターネット商店街です。
2011年にサービスを開始してから、累計作業数は200万件以上、累計利用者も200万人以上となっています。累計の出店登録数は9万店です。
くらしのマーケットの「立ち上げ期」にやったことをぜひ教えてください。
浜野:
2011年にサービスを開始した当初は、1件1件電話をかけたり、実際に会いに行って出店者さんを集めていました。ネットで「ハウスクリーニング × エリア」などで検索して連絡していきましたね。
登録は無料でしたが、「ネットは怪しい」という不信感から断られることも多かったです。それでも「損はないので登録してください」とお願いして、なんとか消極的な気持ちで登録してもらっていました。
出店者さんが集まるまでの数年間は売上も伸びませんでした。リリースから数ヵ月後に「やっと予約が1件来た」というレベルで、もう1年目は「週に1件」や「1日に1件」といったことが続いていましたね。
ただ少ないけれど、着実に増えていたので「増え続けているから問題ない」という感覚はありました。実際に「最初の1件目」が来てから、月の依頼件数が減ったことは恐らく1度もなくて。ずっと増え続けているんです。
また予約が入るとすぐに、出店者さんに電話して「今予約が来ましたよ!」と連絡していましたね。まさか誰も「お客さんが来るだろう」と予想していなくて気付かないことが多いためです。
そこから「どんな転換点」があってサービスが成長していったのでしょうか?
2014年になると、Googleのアップデートによって「くらしのマーケット」の検索順位が上がりはじめたんです。これはサイト内の継続的な改善が、評価されたのだと考えています。
例えば、出店者さんに登録してもらう際には、「ページを作ってください」とただ任せるのではなく、出店者さんの特徴を1つずつヒアリングして、初期からこちらでページを作っていたんですね。
事業者さんに「特徴を書いてください」と言うと、「何もないよ」と言われがちですが、実はそれぞれに特徴があります。夫婦で運営している事業者さんなら、それを書けば「1人暮らしの女性でも安心だ」と思ってもらえます。
このような地道な改善が、SEO的にもユニークなコンテンツとして評価されて、相対的な順位が上がっていったのだと思いますね。
検索順位が上がると注文数が増えます。注文や売上が伸びると、出店者さんも獲得しやすくなり、マーケティングチャネルを拡大できます。このようなサイクルが回ると一気に成長できるようになります。
出店者さんの獲得も、以前は「お客さんが来るかわかりません」と正直に言うしかありませんでしたが、「月商で何百万も稼いでいる方がいますよ」と言えるようになりました。訴求力が強くなれば登録率も上がります。
さらに売上が伸び始めると、デジタルマーケティング(リスティング広告)などに投資して、効率的に出店者さんを獲得できるようになります。個別に連絡するよりも圧倒的に効率は良いですよね。
こうして2014年から、毎月売上が「5万円・10万円・20万円」という感じで倍々に増えていって、一気に成長が始まりました。
マーケットプレイスの「ニワトリタマゴ問題」で重要だったのは、最初に供給側を集めるときに「需要は0」であっても、最低限成立する仕組みを用意することだったと考えています。
その仕組みに連動して、お金がかからず無料掲載できるというサービス設計が肝だったのかなと。
これは「長期的な成長に貢献した」と思える判断があれば知りたいです。
浜野:
業界に特化しなかったことです。例えば、ハウスクリーニング特化のサイトなどにはしないで、最初からさまざまなサービスを扱うことを目指していました。
バーティカルなサイトにすると、別カテゴリに結局拡大できないんですよ。後から拡大しようとしても「ハウスクリーニングのサイトだよね」「家事代行のサイトだよね」と認識されてしまいます。
つまり、カテゴリに特化したサイトだと、リピート率が伸びず、1人あたりの売上も伸びづらくなるんですね。例えば、エアコンクリーニングを「毎月頼む人」はいません、多くても年に数回くらいですよね。
ですが、多様なカテゴリを扱うと「トイレのクリーニングもあるよ」とか「引っ越しもできるよ」と、年に何度も利用される可能性を高められます。カテゴリを跨いだクロスユース構造が、サービスの規模を引き上げます。
くらしのマーケットの「ネットワーク効果」を強くするための3つのポイント
① 「エリア × 業種」を充実させていく。
浜野:
くらしのマーケットは、ネットワーク効果によって、競合が追いつけないところまで事業を進められたのも良かったと思います。
ネットワーク効果を強くするには、基本的には「エリア × 業種」を充実させていくことが大切です。カテゴリーの選定は、Googleの検索ボリュームが最も客観的な情報のひとつなので、そこでニーズがあるかを確認します。
新しくカテゴリを発掘するときは、出店者さんに「増えている要望や作業」を聞いたり、ユーザーからの要望を参考にしたり、サイト内で検索されたけれど結果を返せなかったキーワードを調べます。
新設して一気に当たったのは「エアコン取り外し」といったカテゴリです。地域によっては、賃貸でも自分でエアコンを設置して、引っ越すときに外さなけいといけない物件も多いんですね。
② 「出店者コミュニティ」を活性化していく。
浜野:
ネットワーク効果をより強くするためには「出店者コミュニティの活性化」も重要だと考えています。勉強会やサミットを各地で開催することで、成功事例の共有が促進されて、相乗効果が生まれます。
例えば、出店者さんが毎回きれいなスリッパを持参してお客さんの自宅にあがるだけでも、ユーザー体験は確実に良くなりますよね。
勉強会でこうした成功事例が共有されると、その瞬間にエリア内でみんなが同じことを実践し始めるので、サービス水準が劇的に向上します。これを継続すると、ユーザー体験はめちゃくちゃ上がるんですね。
③ 「出店者スコアリング」で良い人を評価する。
浜野:
ネットワーク効果を高めるには、良い人の行動を評価し、そうでない人の評価を下げる仕組みも重要です。
くらしのマーケットで、この役割を果たすのが「出店者スコアリング」という、出店者さんのアクティビティをスコア化する取り組みです。
これは「良い行い」をする出店者を評価して、「悪い行い」をした出店者の評価を下げる仕組みです。ランキングの順位にも反映されるので、正直に実直に行動していると評価が上がっていきます。
例えばですが、お客様からのお問い合わせへの返信は、当然遅いよりも早いほうが良いので、そういう「返信の早さ」も1つの指標になっています。
成功事例①:アプリのDL数を伸ばした工夫
浜野:
予約リクエスト後の、アプリへの誘導の仕方を少し変えたところ、そこからのダウンロード数が1.7倍に改善しました。
ポイントは、アプリのダウンロードを「予約後のステップ」として組み込んだことです。ステップ①ステップ②と表示して、「アプリのダウンロードがおすすめです」「次はこれをしましょう」と説明しました。
ただストアのバッジを表示するよりも、ゆるい強制力が働くようになって、数値が改善したのかなと。
アプリを入れてもらえると、リピート率が高くなるなど、エンゲージメント率も改善します。出張訪問サービスは、出店者とのやり取りも多いため、アプリのほうが電話やメッセージの利便性も高くなるんです。
成功事例②: 「電話をしないこと」を訴求したら、単価を1.5倍に上げても売れた
浜野:
くらしのマーケットの出店者には、「お客様に電話をかけません。メッセージのみで対応します」このように記載したところ、単価を1.5倍にしても売れるようになった、ハウスクリーニング事業者さんがいます。
理由は「電話が苦手なユーザー」が一定数いるためです。電話をしたくないユーザーというのも、最近は多くなっているのかなと。
電話で他人と話すのが苦手、忙しいので電話を取れないといった理由で、「電話をかけない」という約束に価値を感じる人がいるんですね。
成功事例③:外壁塗装の流通額が「2年で11倍に」
浜野:
外壁塗装のカテゴリでは、まず現地調査員を派遣して必要なデータを集めてから、各事業者から見積もりを出す方式に変更したところ、2年間でカテゴリの流通金額が11倍に増加しました。
以前は「どんな人が来るのか。信頼できるのか?」と不安に思う人も多くて依頼の規模も小さかったのですが、安心して頼める仕組みになったことで、より単価の高い依頼が来るようになり、単価も4.5倍に向上しました。
安心して頼める仕組みがないと、外壁塗装なら「全面」ではなく「壁の一部」を頼もうとするなど、小さな単位で依頼する力学が働くんですね。
また、事業者さんをいきなり選ぶ方式だと、家に来て営業されると他に良い選択肢があったとしても、そこで決まりやすいのだと思います。
また「マーケットプレイスサービス」を立ち上げるなら抑える3つの条件
浜野:
1つ目の条件は、大きくて成長中の市場でやること。我々の場合でいうと、ハウスクリーニングやリフォームなどは、全部足したら数兆円の市場になると思いますし、それらをネットで依頼する市場はどんどん成長しています。
2つ目の条件は、マーケティングチャネルが存在すること。例えば、家事代行を「C2Cでやろう」とすると、供給側の「家事代行ができる主婦」を集めるためのマーケティングチャネルって、恐らく存在しないんですよ。
これがハウスクリーニングなら「ハウスクリーニング 渋谷区」と検索すれば事業者さんがたくさん出てきます。これは言い換えれば、事業としてやっている人の営業リストなので、そこにアプローチすれば良いわけです。
供給側の強度も重要です。「空き時間にちょっと家事代行をやりたい主婦」だと強度は高くありません。それより生業としてやっている人がいて、そこにアプローチできるかが大事です。
供給側が既に市場に存在し、その供給側を集めるチャネルがあるという状態でなければ、お金があっても効果的なマーケティングができず、マーケットプレイスとして成立しない可能性が高いです。
3つ目の条件は、社員が誰かに頭を下げなきゃいけない商売はやらないようにします。くらしのマーケットは、初期費用や月額費用は1円ももらわずに、お客さんが来たら手数料をいただくモデルです。
これだと「お願いする」というよりは「対等な関係」になります。win-winの関係に常になるからです。一方で、お客さんが来るかわからないけど、月額10万円を払ってくださいだと「頭を下げる商売」になってしまいます。
これを続けると成果が出ないときに社員の心がすり減っていくと思います。なので、社員が頭を下げないといけない商売はやりません。言い換えると、気持ちよくお金をもらえる仕組みを大事にします。
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【取材協力】
くらしのマーケット:https://curama.jp/
みんなのマーケット株式会社:https://minma.jp/
浜野 勇介さん:@yusukehamano
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