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ニーズを捉える「ユーザーテスト」から世界2,000万人の利用者に成長。「家族アルバム みてね」に聞く、コミュニケーションサービスの丁寧なつくり方。

利用者が2,000万人を突破した「みてね」さんを取材しました。

株式会社MIXI 取締役ファウンダー 「家族アルバム みてね」事業責任者 笠原 健治さん

「みてね」について教えてください。

笠原:
「みてね」は、家族向けに写真や動画を共有できるアプリで、利用者数としては世界で2,000万人を突破しています。

日本国内では、2022年に生まれたお子さまのご家庭の「2家族に1家族以上」に利用されている(55%)というデータも出ています。

登録経路としては「先輩のママ・パパから聞きました」という口コミからが圧倒的に多いようです。

どのように「みてね」は生まれましたか?

笠原:
「みてね」を開発したキッカケは、自分に子どもが生まれたときに「ここまでたくさん写真・動画を撮るようになるのか」という驚きがあって。

それで、家族と「子どもの写真・動画」を共有できるベストなサービスを、自分たちで作りたいと考えたのがはじまりでした。

最初はニーズの検証からはじめました。自分自身の体験だったり、社内のメンバーに聞いてみると、まず一定のニーズはありそうだなと。

ただ、本当にみんなが「子どもの写真・動画」を多く撮っているか疑問で、ネット業界の人だけかもとも思えたので、その辺りを調査しました。

アンケートを万単位で回収して、どれくらいの頻度や枚数で撮るのか、共有したいニーズはあるのか、既存ツールへの不満点などを調べましたね。

結果としては「子どもの写真や動画」を撮りすぎるくらい撮っていること、また「家族と共有したい」というニーズがあることを確認できました。

当時は「LINE・SNS・クラウドサービス」などで、子どもの写真を共有している人が多かったが、機能としては似ていても「違ったユーザー体験」を届けられると考えた。

ニーズを確認できた後は、どのようにアプリ開発を進めていったのでしょう?

笠原:
一定のニーズを確認できたので、今度はテスト版の「みてね」を開発して、ユーザーテストを実施していきましたね。

このユーザーテストでは、0歳児のママたちを約20人ほど集めて、テスト版の「みてね」を家族と2〜3週間ほど使っていただきました。

1回目のテストの結果は、実は評価が悪かったんです。最も不評だったのは「子どもが生まれた日から遡って写真・動画をアップしていくUI」でした。

僕らは生まれた日からの写真や動画をアップすると「アルバムが完成する」という特徴に目が向いていたのですが、ユーザーは「今日の写真や動画」を家族に共有したいと考えていました。

ユーザーの声としても「今日撮った写真をあげたいのに」「生まれた日からだと多すぎて大変です」といったものが挙がっていましたね。

そこで、シンプルに最新から選んでいく「今日の写真や動画」を軸にしたUIに変更して、2回目のユーザーテストを実施しました。

すると、アップロードの初期体験が変わったことで「テストが終わっても、使い続けたいです!」という声が増えて、評価が高くなりました。

これが嬉しくて、希望者の自宅まで伺って、テスト版のデータをリリース後も使い続けられるように、移行作業をしたりもしましたね。

1回目のテストでは高評価が10〜20%でしたが、2回目のテストでは高評価が70〜80%まで上がって、ここで一定の手応えを感じました。

なぜなら、使ってくれさえすれば「使い続けたい」と思ってもらえそうだとわかってきたからです。

リリース初期には「どのようなポイント」を意識して運営していましたか?

笠原:
2015年に「みてね」をリリースすると、初速はそこまで良かったわけではなく、登録数がじわじわと増えているという状態でした。

こういう新しい事業をはじめるときって、基本的に「ネガティブな数値」が並びがちだと思うんですよ。新規のユーザー数が伸びないなとか。

このとき意識したほうが良いのは、「ネガティブな数値」に目を向けることではなく「ポジティブな数値」に目を向けることだと思うんですね。

例えば「みてね」でいうと、はじめは登録者が少なかったのですが、家族を招待して使っている方は、明らかにアクティブに使い続けていたんです。

上図は2021年のデータだが、初期から同じ傾向が見えた。

あとは少し違いますが、子どもが生まれたばかりの人に「みてね」を紹介すると、ハマってくれる人が多かった。これも勇気になりました。

実際に、初期に鈴木おさむさんが、偶然ブログで紹介してくれたことから、「みてね」の登録者が大きく増えたこともあります。

感覚的には、ドンピシャのターゲット5人に紹介して、4人くらいがいいねと言ってくれる場合は、成長する可能性が割とあるのかなと感じます。

SNS「mixi」を作ったときも、競合サービスに初速では負けていたんですよね。そこだけ見ると「ジリ貧だな」と思ってしまいます。

ただ、はじめた人の「アクティブ率や熱量」には手応えを感じたんですね。書く人は日記を毎日書いていたし、見る人は日記を毎日見にきていた。

そういう、アクティブユーザーの熱量を見ると、初期の成長スピードでは負けていても、いつか逆転できるかもと思えたんです。

なので、とくに初期は「ネガティブな数値」ではなくて、何か特徴的な数値や想定よりも伸びている指標に注目したほうがいいのかなと。

もちろん、そもそものコンセプトがウケていない場合には、そこを見続けたとしても、伸びないケースもあるとは思うのですが。

「人が賑わっている感」を演出する理由

笠原:
コミュニケーションサービスでは「人が賑わっている感」を出すことも大切でそこも意識しています。これがないと、やっぱり寂しいので。

例えば、ご家族が「みてね」を見たかどうかがわかる「みたよ履歴」という機能には「人が賑わっている感」を伝える役割があります。

この機能があると「どの写真や動画を見たか?」まではわからないものの、「誰々が見てくれた」という情報がほんのり伝わります。

すると、共有した方も「あ、写真を見てくれたかも」とか「もっと動画をあげようかな」と思えるので、共有するモチベーションにつながるんですね。

直接言葉を交わさないものの、ひとつのコミュニケーションになっている。ということで、これは入れて良かったなと思います。

この機能は、mixiの「足あと」などが原型です。日記を書いて「足あと」が残っていると「あ、見てくれたのかな」とほんのり伝わります。

潜在ニーズには「サプライズ施策」でリーチする

笠原:
非連続な成長を起こすためには「顕在ニーズと潜在ニーズ」にリーチするための施策のバランスも大事で、これも意識しています。

手堅い改善だけではなく、 サプライズを起こせるチャレンジ施策も必要で、後者は「ユーザーの声」を聞いても中々出てきません。

例えば、みてねの「1秒動画」という、動画を1秒ずつ切り取ってつなぎ合わせたムービーを、自動作成する機能はこれに該当します。

ユーザーの方に「1秒動画」を届けることで、「こんなに小さかったのに大きくなったんだな」など、忘れかけていた思い出を届けられます。

この体験を通じて「また撮ったものを上げておけば、いいことあるかも」と思ってもらえれば、共有するモチベーションにもつながります。

つまり「みてね」の体験としては、熱量の高い「今」を共有してもらい、気づけば「思い出」が溜まっていき、感動の振り返りがカンタンにできる、このサイクルを大切にしています。

過去の写真を「ウィジェット」に表示する機能や、月ごとに振り返るアルバムのUIなども、感動の振り返り体験があり、このサイクルに貢献します。

指標としては「Weekly Active Family」(WAF)というものを追っていて、1週間に1回以上は使ってもらえることを意識しています。

海外に展開するときの進め方

笠原:
2017年に「みてね」の英語版をスタートして、現在は7言語・175の国や地域でサービスを提供しています。

海外に広げていくときは、言語圏の市場規模、課金の市場や文化、翻訳体制の構築難易度などをもとに、展開する言語などを決めましたね。

サービスの特徴としては「子どもが生まれた後」に一気にニーズが生まれるというものなので、適切な瞬間に知ってもらう必要があります。

そのため、広告を活用したマーケティングで「最初のユーザー」を獲得しているのですが、そこからはじわじわと口コミで広がっています。

国や地域別に「自然流入:広告流入」の登録比率も見ていますが、海外でも自然流入の比率は一貫して上がり続けていますね。

現時点では、海外では英語圏である「北米」のアクティブユーザーや新規登録が最も多くなっています。

海外版の「みてね」の名称は、当初は「FamilyAlbum Mitene」にしていたのですが、1年後くらいに「FamilyAlbum」に変更することにしました。

Miteneだと「意味がわからない・綴りがわからない・発音できない」というコミュニケーションにおける難しさがあったためです。

これは現地の方に話を聞いてわかりました。やはり「発音」に自信がないと発声してもらえませんし、招待する家族にもアプリ名を説明できません。

そうなると、どうしても「口コミしづらいね」ということで、わかりやすい「FamilyAlbum」に泣く泣く変えることにしたんですね。

海外の街を歩いていても、「UNIQLO」「MUJI」「Ootoya」といった名称のままで進出している、日本のブランドを多く見かけました。

それを見て、何度も「みてねのままでも良いのでは」とも考えたのですが、成功確率を1ミリでも上げたくて名称を変更しました。

アプリを軸に「みてね経済圏」でマネタイズ

笠原:
マネタイズについては、月額課金の「みてねプレミアム」「みてねプレミアムPro」はもちろん、関連サービスをつくることでもマネタイズしています。

業務提携をしたり、資本も絡めて提携することで「みてね年賀状」「みてね出張カメラマン」といったサービスをつくってきました。

まずは「みてね」のニーズとの関連性が強い「写真・動画」に関わる商品から進めてきました。これは自然な導線なので立ち上げやすいですね。

また「みてね」のアクティブ率の高さを軸に、子育ての課題をITの力で解決するサービスへの、タッチポイントとしても拡大しています。

例えば「みてねみまもりGPS」は、子どもを大切に思って使うモチベーションとしては同じなので、「みてね」を経由して結構売れているんですよ。

子どもの年齢に応じて、年齢が低いときは「写真プリント」、小学生以降は「みてねみまもりGPS」など、長期のARPUのバランスも考えています。

連携相性としては、「新しさや驚き」を提供できるサービスは相性が良く、逆にどこにでもあるものはあまりウケないな、という印象ですね。

例えば、普通に「ランドセル」を販売したとしても、百貨店でもネットでもどこでも買えるから、「みてね」から買う理由が生まれないのかなと。

コミュニケーションサービスの「ヒット率を高める考え方」があれば教えてください。

笠原:
コミュニケーションサービスの体験というのは、「共有したいコンテンツ」× 「共有したい相手」で決まると考えています。

ここで大切なのは、どちらか or どちらにも「新しい価値・発明・体験」をつくれるかどうかで、それが魅力的に差別化されていることです。

その体験が優れていると、ヒットする確率が高くなると考えています。

例えば「みてね」では、コンテンツは「子どもの写真や動画」になります。これは家族にとってのキラーコンテンツです。

スマホでいつでも撮れるようになった、祖父母世代にもスマホが普及して祖父母にも見てもらいやすくなった、という時代性もこれを後押ししました。

また「共有したい相手」は、自分がアルバムに招待した「視聴率100%」の子どもの大ファンの人です。

完全招待制で、見る人が「子どものファン」だけしかいないということは、共有するほうも安心して遠慮なくコンテンツをアップできます。

あとは「mixi」や「みてね」もそうですが、広告費をいきなりドカンとかけずに「ロケットスタートしない成長」をしたほうが健全だと考えています。

スタートアップって「お金がない状態」からはじまって、少しずつ成長していくことが多いですよね。このプロセスが意外と大事なのかなと。

最初はドカンと行かずに、気付いた人が「これ、いいね」と使ってくれる。そして挙がってきた課題を改善する。また少し広がって「これ、いいね」と誰かが使ってくれる。このループを回して満足度や評判を高めていく。

そして、口コミが増えて多くの人に気付かれる、またはマーケティング費用を大きくかけられるようになったときには、すごくいいサービスに育っている。この成長プロセスが大事で、基本はそうありたいなと。

完成度については「らせん階段状」に仕上げていくことを意識しています。代わる代わるで「課題」を解決していくイメージです。

なぜなら、リソースが少ないうちはとくに、そのほうが全体の完成度を高められると思うからですね。ある課題を突き詰めるよりも、一定良くなったら次の課題に移る、また一定良くなったら次に移る、と進めたほうが良い。

なので、最初はザザッと下書き的につくって、完成度を高めていくことを、アプリやプロダクトの開発では意識していますね。

チームではどのような流れで「プロダクトの改善」を進めていますか?

笠原:
ドメイン毎に分かれたチームが、まず施策を洗い出して、仮説や効果を事前に検証した上で、優先度をつけながら施策を行なっていますね。

例えば、データを洗い出してみて、これぐらいの人がこういう行動を取っているから、この機能を入れたら良いのでは、と見積もりを立てます。

ニーズを確認するときは「ユーザーアンケート」を行うことも多いですね。これも回答率が高くて非常に助かっています。

一部のケースでは、1枚ペラのLPを試験的につくってみて、ニーズを検証してみることもありますね。

例えば、海外で「FamilyAlbum」のギフトカードの開発を検討したときは、LPをつくって「関心度の高さ」を検証しました。

通常は、Amazonやスターバックスなどのギフトカードを選べるのですが、その中に準備中の「FamilyAlbum」のギフトカードを並べてみる。

タップすると「現在準備中です。」と表示されるだけなので、体験はあまり良くないのですが、そこのタップ率を見れば関心度がわかります。

結果的に、そのタップ率が「予想よりも高く出ている」と検証できたので、商品を開発していくことになりました。

あとは、チームにおける「気づきと発見の回数」が多ければ多いほど、いいものをつくれると思っていて。

例えば、社内のSlackには「アイデアソン」という、思いつきやアイディアを投稿するチャンネルがあって、こんな面白いサービスがあった、こんなサービスを連携したらどうか、と自由に投稿していますね。

ユーザーの方からいただいた代表的な「要望・不満・疑問」を、カスタマーサポートチームから共有してもらうチャンネルなどもあります。

アプリやプロダクトを作るときって、「気付きや発見」を得てから行動するという流れが多いので、そこが増えれば増えるほどいいなと。

「みてね」の今後について教えてください。

笠原:
事業部のミッションとしては「世界中の家族のこころのインフラをつくる」というものを掲げています。

原点にあるのは、「子どもの写真・動画」を共有整理できるベストなサービスを作りたいということです。

おじいちゃん・おばあちゃん世代でも簡単に使えて、美しいUI・UXで誇りに思えるものを作りたい。これが原点でこれからも変わりません。

自分自身でも「みてね」を使うと、家族の絆が深まったり、子どもへの愛情を世代を超えてつなげていけるなと感じますし、非常にやりがいを持って楽しく続けられています。

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【取材協力】
株式会社MIXI:https://mixi.co.jp/
家族アルバム みてね:https://mitene.us/ 
株式会社MIXI 笠原 健治さん、広報の小松 右宜さん

【告知】「みてね」では各職種にて採用中。PdM、マーケティング、デザイナーなどを募集しているそう。詳しくは下記サイトからご覧ください。

※ 以降は、+αのトピックスを7つほど、note購読者向けにまとめています。プレミアムの機能をどう設計するか、訴求タイミングで反応率6倍になった施策、海外展開で工夫していること、などご興味あればご覧ください。

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