ARRが23億円を突破した「ココグルメ」に聞くペットフードブランドの急成長の裏側。ポップアップで「対面で話した人」と「少量を買って帰る人」の収益性が高くなるワケ。
販売食数が1.2億食を突破した「ココグルメ」さんを取材しました。
「ココグルメ」について教えてください。
矢作:
獣医師監修の「手づくりフレッシュペットフード」です。コンセプトとしては「手づくりごはんで、一生愛そう」を掲げています。
2019年6月に発売されて以来、累計の会員愛犬数は20万頭を突破していて、累計の販売食数は1億2,000万食を突破しています。
ビジネスモデルとしては、サブスク(定期購入)が中心になっていて、ARRは23億円に到達しています。
僕らが解決する課題は「ご飯を食べてくれない」「手作りご飯をあげたい」といったものなので、美味しさや品質の高さには力を入れていますね。
創業の初期の話や「ココグルメがどう生まれたか」について教えてください。
矢作:
バイオフィリアは、2017年に僕とCEOの岩橋が共同創業した会社で、当初は「ペットとITの掛け算」で何かできないかと事業を模索していました。
そこから、4つほど事業を立ち上げたのですが、どれもあまりうまくいかず失敗してしまって…。会社の残金が3万円まで減った時期もありました。
そのときは、受託業務でしのぎましたね。僕はもともとエンジニアだったので開発の仕事を受けたり。岩橋は証券会社でIPO関連の仕事をしていたので、そうした業務を受けていました。
そこから、2018年末に「フレッシュペットフード」に着目します。最高の手作りペットフードをつくれないかと考えたんですね。
キッカケになったのは、共同創業者の岩橋の愛犬が亡くなったときに、僕ら自身が「ペットの健康問題」に直面したことでした。
また海外の市場を見ても、フレッシュペットフードの認知が拡大していて、ビジネス的にも可能性があると考えました。
商品開発はどのように進めましたか?
矢作:
ココグルメの試作品は、共同創業者の岩橋の実家のキッチンで、実家の愛猫と一緒に開発していましたね。
当時、岩橋の愛犬が亡くなってしまったため、あまりご飯を食べない「愛猫が食いつくフード」を作ることからはじめたんです。
スーパーでほうれん草やにんじんを買ってきて、栄養素を計算して試作品をつくって愛猫に食べてもらう、そうした毎日を過ごしました。
試行錯誤を重ねると、食いつきの良い「これならいけるかも!」というレシピが開発できました。ただ、その試作品の見た目は正直あまり良くなくて、「ぐちゃぐちゃな野菜炒め」のような感じでしたね。
そこからは、完成した試作品をビニールに詰めて、工場に持って行って「こういうものを作りたいです!」と工場を探し回りました。
数十社に断られながらも工場を見つけて、残り僅かな資金で商品をつくり、本格的な生産に入る直前に、ベンチャーキャピタルなどから約2,000万円の資金調達をして、2019年6月にココグルメを発売しました。
ココグルメのリリース後は、どのように売上が伸びていきましたか?
矢作:
リリースすると初月は100万円ほど売れて、そこから口コミ・メディア掲載・広告出稿などによって、200万300万とポンポン伸びていき、約1年くらいで月の売上が約1,000万円まで到達しました。
苦戦したのは「資金繰り」でした。ものづくりのビジネスは、先にお金が出ていって後から売上として返ってきます。ここが本当に苦労しました。
工場での生産もあるし、お客様に出荷しなくてはならないので、赤字だからといって簡単に止められず、何度も倒産しかけました。電気代から何からコストを見直して、資金が回るように奔走した時期もあります。
そこからは、2022年の10月に会員愛犬数が10万頭になり、2023年の9月には会員愛犬数が20万頭と成長していきました。マーケティングについては、お客さんとのコミュニケーションを大事にしました。
顧客分析①:ポップアップで「商品を買って帰る人」は顧客収益性が高くなっていた。
矢作:
僕らはイベントでの「ポップアップ出店」に力を入れています。試行錯誤を重ねることで「Web広告と同程度」の獲得効率まで引き上げられました。
ひとつ発見だったのは、イベントで1袋でも買って帰ってもらえると、その後にWebで商品を購入してくれる確率がグッと上がる、という発見です。
イベントって「お祭り感」があって盛り上がりやすいのですが、家に帰るとスッと忘れてしまいます。熱量の維持のためには、何かを買って帰ってもらうことが必要で、これはサンプリングでは微妙でした。
さらに深ぼると、多く買ってくれる人よりも、少し買ってくれる人のほうが、お客さん1人あたりの収益性(LTV)が高いこともわかりました。
これはなぜかというと、サプライズの瞬間としては「愛犬が美味しそうに試食していた」という現地での体験がピークで、自宅に帰ると徐々にその熱量が薄れてしまうためです。
つまり、たくさん買って帰ってしまうと、食べ切るまで「次も買おう」とはならないわけで、食べ切った頃にはもう「テンションの賞味期限」が切れてしまうのだと解釈しています。
これが少量買う人のほうがLTVが高くなる理由です。
顧客分析②:ポップアップで「対面で話した人」は顧客収益性が高くなった。
矢作:
また、既存のお客さんと「対面で会えること」も、ポップアップの隠れた魅力だと感じています。本当に採算の計算に入れているくらいです。
実際にココグルメでは、対面で会ったことのあるお客さんと、会ったことのないお客さんを比較すると、LTVが2~3倍くらい違うんですよ。
面白かったのは「商品を買う前」に対面で会った方って、特別LTVが高いわけではないんですね。普通なんですよ。そうではなくて「商品を買った後」に対面で会うことで、LTVが2~3倍になっていたんです。
利用後に疑問が解消されたり、ECサービスだけど会って話せることが、会社や商品の信頼性につながっているのかなと。
このスマホやネットの時代に、直接会って話せること、顔を見て商品を理解してもらえること、これは実は強力な差別化になり得ると感じています。
顧客分析③:初回の体験で「高品質感」に反応した人はLTVが1.5倍も高かった。
矢作:
ココグルメではアンケートを分析すると、初回の体験で「高品質感」に反応している方のLTVが1.5倍ほど高くなっていることがわかりました。
ほかにも印象としては、「健康そう」「安心できる」「美味しそう」などがあるのですが、圧倒的に「高品質感」だけ有意差が出ていたんですね。
この結果を受けて、ブランドの体験として「高品質感」を大切にすることを意識するようになりました。
例えば、箱の色を白色から「茶色」に変えると、配送過程でついた汚れや傷が目立ちにくくなって、手元に届いたときに「高品質感」をより感じてもらいやすくなります。箱の丈夫さ、同梱物などもそうです。
これは「高級感」とは違うものです。例えば、無印良品さんは高級なイメージは特別ないですけど、高品質なイメージはあるじゃないですか。
つまり、ハイブランドではなくても、日々愛用するにあたって、精神的に安心できる品質を感じられること、これが「高品質感」なのだと思います。
社内の当たり前を発信したら「SNSやメディアで話題になった」
矢作:
僕らの会社で当たり前だった「愛犬愛猫と一緒に働ける」という制度を社外に発信したところ、求人応募数が10倍になったことがあります。
もともと、社長の岩橋もメンバーもみんな愛犬家で、動物と出社して一緒に仕事をするのが当たり前の光景だったんですよね。
それで、あるとき社長が「わんこを吸ってる写真」をSNSに投稿したら、これがすごい反響で。あ、これ当たり前じゃないんだと気づいたんです。
そこで「わんダフル・ワーキング」と名付けて社外に発信すると、メディアやSNSで話題になり、ありがたいことに求人応募数が10倍になりました。
やっぱり、愛犬を飼っている方って「会社には連れて来られないこと」が、働くときの障壁になっているんだなと。
他にも僕らの会社では、一緒に暮らす動物の扶養手当があったり、動物が亡くなってしまったときには休暇を取れる制度もあるのですが、こうした制度に魅力を感じて入社してくれる方も多いですね。
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【取材協力】
株式会社バイオフィリア:https://biophilia.co.jp/
ココグルメ:https://coco-gourmet.com/
矢作 祐之さん:@yahagi1989
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