検証に9ヶ月かけたサービスが約2年半で450万食を突破。「つくりおき.jp」が語る、公開の翌月に「継続率100%」に至ったサービスづくりの事前検証のポイント。
約2年半で450万食を突破した「つくりおき.jp」さんを取材しました。
「つくりおき.jp」について教えてください。
前島:
少し手間のかかる、おいしい家庭料理をお届けするサービスです。累計提供食数は450万食(2022年8月時点)を突破しています、お客様の8割が共働きの子育て世帯です。
2020年2月の正式リリース以降、徐々に対応エリアを拡大していて、現在は1都3県の一部エリアに展開しています。従業員数は約310名です。
※ 2021年の5月時点で「MRR1億円を突破」している(現在のMRRは非公開)
どのように「つくりおき.jp」を着想したのでしょう?
前島:
僕の家庭は父親がうつ病(現在は寛解)になってしまい、その期間は母親がずっと4人兄弟を育ててくれました。とくに食事をつくることは大変そうで、母が台所で泣いている姿を見かけたこともあります。
そういう原体験もあって、リクルートでエンジニア・PMとして働いた後に、起業をするときに「機会の平等化」に関するサービスをやりたいと思って。海外の事例を3,000社調べて、勢いのある領域を絞っていったんですね。
結果的に、フードデリバリーなどの食の領域、とくに中食領域が伸びていることがわかり、市場の伸びと原体験から「つくりおき.jp」をつくりました。
最初はどのように「検証」を進めたのでしょうか?
前島:
はじめは「質的調査」と「量的調査」を繰り返しました。
まず最初に、簡単なページをFacebook広告に出して、テストマーケティングをやってみたところ、かなり手応えがあったんですよね。1事前登録あたりの獲得コスト(CAC)は約1,500円でした。
登録してくれたのは「子育て中の主婦の方」がとても多くて、事前登録者のほとんどが女性でした。
このように、まずは「事前登録してくれる人がいるか」「どんな人がメイン属性になり得るのか」を、量的調査で検証しました。
そこからはどのように「検証」を進めましたか?
前島:
次に登録いただいた約50名に連絡して、「なぜ登録いただけたんですか?」「食事にどんな課題を抱えていますか?」とインタビューをしました。
するとひとつ発見があったんです。それは「料理をつくるときの罪悪感」についてでした。僕の固定観念はここで壊されることになります。
当時はミールキットが出てきた時期で、ミールキットは「つくらない罪悪感」を解消するために、少し調理の手間を残していると言われていました。
当時は僕も「そういうものなんだな」と考えていましたが、インタビューをしてみると「料理をつくらないことに罪悪感を感じている人」は、実際にはかなり少ないことに気がついてきます。
たしかに「罪悪感」は存在していましたが、それは冷凍食品を毎日出すことや、成分がわからない食事を子どもに出すこと、に対する罪悪感でした。
つまり「料理をつくる手間」はなくしたい人が多いことに気づいて、そこで振り切って「食事の手間を0にする」という方向性を定めました。
レンタルキッチンで「ウケる料理の正体」を検証
前島:
そこから「どんな料理を提供すべきか」を検証するために、料理人の方を雇って、レンタルキッチンでグループインタビューを実施しました。
いろんな方に料理を食べてもらってお話を聞く。それを繰り返していくと、「ちょうどいい塩梅の料理」が掴めてきたんです。日によって料理を変えると「ウケた日」と「ウケなかった日」があったんですね。
具体的には、簡単なおひたしのような、レンジで簡単にできる料理を出した日は「こんなの自分でつくれますよ」とウケなかったんです。
また逆に手の込みすぎたものを出した日も「これを毎日は食べたくないよ」とウケませんでした。
ところが、ちょっと手が込んだ「ホッとする味」の料理を出すと、これなら毎日食べたいということで、とてもウケたんですよ。
少し手間はかかるけど、ホッとする味。そういう「おいしい家庭料理」が、求められていると結果的にわかりました。
つまり、シンプルすぎると「自分でやるよ」となるし、手が込みすぎると「毎日食べたくない」となる。適度に手が込んでいることが大切でした。
「手間をなくす体験」を軸にサービス内容を固めた
前島:
体験としては「手間をなくすこと」にこだわりながら、「どう運んでどう渡すか」「どう申し込んでもらうか」を考えました。
そうなると、店舗ではなくデリバリーだ、アプリではなくてLINEだ、料理を日持ちさせて週1回受け取れるようにしようと、決まっていきました。
選ぶ手間もしんどいと聞いたので、手間を減らして楽になってもらうため、メニューを選べない「おまかせ形式」を採用しました。
料理の製造は「外注か内製か」で悩みましたが、工場の方に「家庭向けで、お惣菜で、手作り感があって、週替わりのメニューにできますか」と聞くと「それはできません」と言われてしまって。
メニューの変更は「できても4ヶ月に1回です」と。これは自社でつくるしかないなと、レンタルキッチンで製造することにしました。
こうして、2020年2月に「つくりおき.jp」をリリースしました。初月は30名ほどが登録してくれて、驚いたことに「翌月の継続率」が100%だったんですね。これには手応えを感じました。事前調査を密にやって良かったなと。
そこからはメニューの刷新・開発・改善と、キャパシティを伸張しながら、プロモーションを拡大して、徐々にエリアを拡大していきました。
改善施策① 「初回の継続率」をあげる施策
前島:
毎週メニューが変わる分、初回に届くメニューにもランダム性があるため、継続率が安定しない時期があったんですよね。
そこで初回については、必殺技的な「満足度の高いメニュー群」からお届けするようにすると、継続率を改善できました。
これはデータで「初回の満足度が高いと長期の継続率も高い」ということがわかったため、体験のファーストインプレッションを強化した施策です。
改善施策② アンケートで「メニューを改善する」
前島:
継続率については、色々な因果を分析しても、結局は「メニューの満足度」に尽きます。そのため新メニューの開発と構成の改善を続けています。
具体的には、お客様にLINEで「メニューの満足度」を毎週聞いて、満足度の低いメニューは入れ替えて、評価の高かったものだけを残していますね。
これだけの成果ではないのですが、毎週毎週メニューの改善を続けた結果、初期に比べると継続率を大きく改善できています。
メニュー構成は、「美味しさ(味)」だけではなくて「サービス(体験)」として考えることも意識しています。
例えば、お子さんのいらっしゃる家庭も多いため、辛いものを提供してしまって、子どもが食べないとなると「サービスの質」が下がってしまいます。
粒マスタードは、大人が食べると「アクセント」ですが、子どもが食べると「苦手なもの」になってしまうこともあるんですよね。
味だけではなくて、冷凍できるかどうかや、辛いものがどれだけあるかも、「お客様の継続率」に貢献すると考えています。
改善施策③ 交換日誌で「顧客からの声」に答える
前島:
お客様との「交換日誌」もずっと続けています。これはお客様からのご意見に毎週お答えするもので、120号以上まで続いています。
思想としては、お客様からのご要望には「やる・やらない」は別としても、真摯に答えようという想いがあって、初期から続けています。
お客様にとっては「こう思っているけどどうなってるかわからない」という状態が一番不安です。だから「できる、できない」「できないのはこういう理由です」と答えることは、ステータスを明確にする意味でも重要です。
また、僕たちは「ユーザー」とは呼ばずに「お客様」と呼ぶことも徹底しています。お客様は一人一人に生活があって、悩みや不安を持つ人間です。
1ユーザーと呼ぶと数字になりやすくて、指標をハックしよう、コンプレックスを刺激してやろうと、ハックする対象になりやすいと考えています。
でもそうではないですよね。数値ではなくて身体を持っている人間なんだ。幸せにする対象なんだということで「お客様」と必ず呼んでいます。
振り返って「つくりおき.jp」の成長につながった特徴があるとすると何だったと感じますか。
前島:
個人的には「フルスタックD2C」と呼んでいるのですが、配送以外の機能を「自社で持っている」というところは、特徴的かもしれません。
D2Cってマーケに特化した会社が多いんですよ。商品はOEMで製造したり、商品の製造などを外部に依存しているわけです。
一方で、マーケ以外に染み出して強みを持つことは、大きく伸びているD2C系の企業には多く見られる特徴だと感じます。
全部やるって大変なんですけど、お客様のご要望を正確に叶えようとすると、最終的にはそうするしかないんですよね。つまり「自分たちでつくる」しかないわけです。
僕らも自社キッチンをつくらずに、OEMで工場から真空パックで配送して、数ヶ月に1度しかメニューが変わらなかったら、LTV(顧客あたりの収益)は圧倒的に下がっていたかなと感じます。
なので、これが最終的に、模倣困難性、お客様の満足度、継続率、事業のKPI、営業利益、売上高につながると信じてやっています。
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【取材協力】
株式会社Antway:https://antway.co.jp/
つくりおき.jp:https://www.tsukurioki.jp/
CEOの前島さん:@keimaejima
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