マッチングアプリの写真を「長方形」にしたらコミュニケーションが促進。累計登録数2,000万を突破した「ペアーズ」成長の裏側と、マッチング品質を高めた3つの工夫。
マッチングアプリ「ペアーズ」さんを取材しました。
⸺ペアーズの歴史について教えてください。
金子:
ペアーズは2012年10月にサービスを開始した、国内最大級の「恋活・婚活マッチングアプリ」です。累計登録数としては2,000万を超えています。ちょうどサービス開始12周年を迎えました。
運営会社のエウレカは、2008年に赤坂優と西川順が共同創業した会社です。初期は受託開発などを行なっていましたが、途中から自社サービスの開発に舵を切ることになります。
僕は2012年に入社したのですが、ちょうど入社前日に「ペアーズが公開された」というタイミングでした。
当時は小さな会社だったので、地べたに座って「何つくる?」と少人数で企画会議をしながら、機能を開発していたのを覚えています。
⸺初期はどんなことを考えてペアーズを運営していましたか?
金子:
会社は小さかったですが、僕らは最初からペアーズを「安心安全なサービスにしたい。真剣な相手を探せる場所にしたい。」と考えていました。
そのため、初期はペアーズに登録するときに「Facebookログインを必須にする」という設計にしました。実名性のFacebookを前提にすることで、ペアーズに「真剣な人」を集めようと考えたんですね。
今では、マッチングアプリが浸透してきていますが、当時は「出会い系」と呼ばれていて「怖い・怪しい」というイメージも強かったので、安心安全なサービスにするためにこうした設計にしました。
集客については、初期から「Facebook広告」を活用しました。出稿をはじめて数ヶ月で、月に数百万円〜1,000万円以上の広告費をかけましたね。
Facebook広告からだと、そのままFacebookユーザーが「登録・ログイン」もできるため、高いCVR(登録率)につながっていました。
初期の広告は、男性ユーザーは「便益訴求」の効果が高く、女性ユーザーには「安心感」を訴求すると効果が高いといった傾向がありました。
マッチングアプリは、立ち上げフェーズでは「会員数」が大事になるので、初期は「新規会員数」を重要指標に置いていましたね。
ほかに集客に貢献したのは「診断系アプリ」でした。これは当時のFacebookで流行していたもので、「相性占い」「性格診断」などを行なってフィードに診断の結果を投稿するというWebサービスです。
この「診断系アプリ」を3ヶ月で約100個ほど作って、これらを使うときにFacebookのペアーズのページへの「いいね!」を必須にする仕組み(当時の仕様では可能だった)により「いいね!」が伸びました。
ペアーズのページに「いいね!」をしてもらえると、ペアーズからフィードに投稿を届けられるようになります。恋愛系の投稿に絡めてペアーズを紹介していくと、大きく登録者が増えていきました。
もう10年以上前ですが、この時代のFacebookは「技術的な仕様」の自由度がかなり高くて、Webアプリを柔軟に開発できた時代でした。
コミュニティの機能は「出会いのキッカケ」を増やす効果があった。
⸺ペアーズで「転換点になった出来事」があれば教えてください。
金子:
初期からペアーズでは、「いつかは結婚したいけど、いい人が周りにいない」という人でも、素敵な人と出会える場所にしたいと考えていました。
転換点になったのは、2013年に公開した「コミュニティ」機能です。これはmixiさんのコミュニケーションを広げる設計がヒントになりました。
mixiって登録しただけだと、周りの友達と「マイミク」としてつながることはできますが、そこから先の人間関係は生まれにくいですよね。
でも、mixiには「コミュニティ」があることで、同じ趣味の人や共通点のある人と交流して、人間関係を広げていける設計になっていました。
ペアーズでもこれを参考に「コミュニティ」をつくり、人間関係をなかなか広げられない人でも、新しい人と出会えるようにしたいと。
意外だったのは、コミュニティの実装によって「相手がどんな人なのか?」がわかるようになるという効果が生まれたことです。
プロフィールに載せる情報が「履歴書」だとすると、コミュニティで見える情報というのは「人となり」に近いんですよね。
例えば、「お酒を飲む人なんだ」とか「猫が好きなんだ」とか、プロフィールには表れない「人となり」がわかると、相手に興味を持ちやすくなります。これはマッチング率の向上にも貢献したと考えています。
毎日おすすめの人を紹介する「ピックアップ」が習慣化に貢献した。
⸺ほかに「転換点になった機能」はありますか?
金子:
2013年にペアーズに「ピックアップ」(現在の「本日のおすすめ」)を入れたところ、アプリの起動率を大きく高めることができました。
これは毎日朝8時くらいに、それぞれのユーザーに何人かの「おすすめの人」を提案する機能です。その時間にプッシュ通知も送っていましたね。
この機能によって、主体的に「いい人を探す」というだけでなく、受動的に「おすすめの人を毎日見る」という新しい習慣が生まれました。
継続的に使っていただくには「アプリを開く動機」が大切になります。この「ピックアップ」はアプリを開く動機につながりました。
⸺そこからはどのように成長していきましたか?
金子:
2014年頃から運用拡大フェーズに入り「LTVの向上」に注力しました。2014年の5月には、単月の売上が約1億円を突破しましたね。
そこから、2015年5月にエウレカは、米国の「Match Group」にM&Aにより参画することになり、日本市場で「どうしたらマッチングアプリが一般的になれるか?」を考えたブランディングの取り組みも進めていきました。
ポイントだったのは、ペアーズを「家族や友人にも堂々と言えるサービス」にするために文化を広げて、ユーザーに安心感を抱いてもらうことです。
2016年にはカスタマーサポートを内製化、2017年には大手飲料メーカーや、著名パティシエの洋菓子店とコラボ。2020年コロナ禍には「ビデオデート」を開発するなどニーズに合わせて機能も拡張しました。
2021年にはペアーズの「プリペイドカード」を大手コンビニ等で販売開始、2023年には業界初のテレビCMを放映しました。
ペアーズの「幸せ退会」を増やす取り組み。
⸺プロダクトの運営で「大事にしている指標」を教えてください。
綿引:
最も大事な指標は、会員の方の「幸せ退会の数」なのですが、それを伸ばすために「コアファネル」と呼ばれるものを追っています。
これは『ライク』『マッチ』『ファーストメッセージ』『メッセージリプライ』という4つの指標に分かれていて、これらを徹底的に磨いているんです。
とくに意識しているのは「マッチングの品質」を高めることです。ユーザーの方が「ピッタリの相手」と出会えるように改善を繰り返しています。
例えば、無料のライク数を増やして「男性側のライク」だけが急増しても、女性側はお相手を選びきれずにユーザー体験が悪化してしまいます。
そのため、発生した「マッチ」は3つだけでも、その先の「リプライ」まできちんとつながる。そういった状態を目指していますね。
マッチング品質を高めた3つの成功施策。
成功施策①:ペアーズの写真を「長方形」にしたらコミュニケーションが促進された。
綿引:
ペアーズでは、写真のデザインを「長方形」に変更したことで、ユーザー間のコミュニケーションを促進することができました。
ペアーズの写真って、初期は「四角」からはじまって、そこから「丸型」になって、今では「長方形の写真」になっています。
これには理由があるんです。
我々の仮説では、ユーザーは写真の中の「人の顔」を見ていると考えていたのですが、リサーチを進めると「趣味や人間性」といった情報を、実は写真からキャッチしているとわかってきました。
つまり、長方形の写真にすると「周りの背景」も含まれるようになるので、趣味や人柄を知るヒントを増やすことにつながるんです。「この人こんな場所に行くんだな。」「こんな服装で出かけるんだな。」という感じですね。
こうした情報は「会話のネタ」にもなるため、これがメッセージの促進につながったと考えています。この変更はユーザーからも好評でした。
成功施策②:マッチ後に「挨拶」を送る機能でコミュニケーション促進。
綿引:
ペアーズでマッチングした瞬間の画面で「挨拶メッセージ」が送れる機能を入れたところ、コミュニケーションが促進されました。
マッチングの演出が入ったら、メッセージ画面にすぐ遷移するのではなく、挨拶をポポッと打てる機能を女性ユーザー向けに提供したんです。すると、メッセージの発生率がかなり改善されたんですね。
理由としては、はじめに「簡単な挨拶」を入れることで、ファーストメッセージのハードルを下げることができたからだと解釈しています。
背景としては、やっぱり「オフラインの出会い」と「オンラインの出会い」には明確な違いがあると考えていて。
オフラインの出会いでは、LINEを交換したあとの「ファーストメッセージ」には、その前にある「会話の文脈」が含まれることが多いと思います。
例えば、「この前はありがとう。」とか「あれ楽しかったよね。」みたいに、その人についての「既知の情報」から会話がはじまるケースが多い。
一方で、オンラインの出会いは、それがない状態で「ファーストメッセージ」がはじまるという点が、ハードルの高さにつながっています。
そのため、ユーザーは慎重に「1通目のメッセージ」を送る傾向があります。いかにこれをカジュアルに送信してもらえるかを考えました。
成功施策③:アプリの「UIデザインの変更」で利便性が向上。
綿引:
ペアーズでは、2024年にUIデザインをアップデートした際に、ABテストを行いながらUIを改善しました。
例えば、以前のUIではユーザーの「お相手を探す」といった目的に対して、どこのタブを押せば良いかがあまり明確ではなかったんです。
そこで、新UIではホームに「お相手を探す」目的の機能を統合して、ライクやメッセージは「コアファネル」に沿ってタブに並べました。
また機能を「アイコン」ではなく「言葉」で説明するように変更しました。これらの改善によって各機能への遷移が伸びていきましたね。
いろいろな軸から「ライクを送りたいお相手」を見つけやすくなったことで「マッチ」も生まれやすくなったと考えています。
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【取材協力】
株式会社エウレカ:https://eure.jp
ペアーズ:https://www.pairs.lv/
株式会社エウレカ 金子 慎太郎さん、綿引 康介さん
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