ARRは5億円を突破。バーチャル空間の「oVice」に聞く、ユーザー定着率が高まる「マジックナンバー」の分析と、SNSで話題になった交通広告の裏側
バーチャル空間サービスの「oVice」さんを取材しました。
oVice(オヴィス)について教えてください。
ジョン:
自由に動いて話しかけられる「バーチャル空間」サービスです。主な用途はバーチャルオフィスがつくれることです。
oViceには2.1万件のスペースがあり、平日は約5万人がoViceに出社します。ARR(年間経常収益)は5億円に到達しています。
利用者は日本が約90%で、サービスの継続率は98%以上。大手企業やレガシーな製造業など、ITからは少し遠いような業種が多いですね。
oViceが「どう成長してきたか?」を教えてください。
ジョン:
2020年6月にクローズドβ版を出したのですが、当時はバーチャルオフィスのニーズは、全然なかったんですよ。なぜなら、コロナ禍は「夏になると終わるはず」と思われていた時期だったからです。
リモートワークってそのうちなくなる。別に課題を解決しなくてもいいよ。そういう空気が圧倒的に強かった。なので、これはサービスとして終わったかなと絶望を感じた時期でした。
オフィスのニーズを話しても、みんなに「え…?」と言われたので、イベントのサービスに振り切ったほうがいいのかな、と迷った瞬間もありました。
でも、もともとそのために作ったくらいですし、オフィスとしてのニーズがあるはずだと私は信じました。そこから、空気が変わってきます。
2020年8月頃になると「コロナ禍はまだ続きそうだ」という雰囲気になり、だんだんオフィスの利用が増えはじめたんです。
テレワーク鬱のような課題も出てきて、企業がこれはもうやらなければと、ニーズが顕在化したのが、この頃だったのだと思います。
そこで、初めて「これは伸びていきそうだ」という手応えを得ました。
そして、2020年の秋になると、色んな学会やビジネスイベントが、oVice上で開催されたことで、認知度が上がっていきます。
また忘年会シーズンに、「Zoom飲みはつまらない」ということで、oViceで飲むというのが、少し流行ったんですよね。
それを通じて、2021年1月に緊急事態宣言が出たことで、さらにニーズが顕在化される起爆剤となり、そこから利用者が一気に伸びて今に至ります。
これまでに印象的だった「ユーザーの心理」があれば教えてください。
ジョン:
oViceに課金して「バーチャルオフィス」を導入しているのに、とくにコミュニケーションをしていない、という会社さんがいました。
不思議に思って話を聞いてみると、「一緒に仕事している」という存在感に課金しています、とお話しされていたんですよね。
これを聞いて、oViceが本当に提供する価値は「一緒にいる存在感・親密感」なんだなと気づきました。
なるほど。この「存在感の正体」は何なのでしょう?
ジョン:
ひとつは「声をかけられるかも」という緊張感です。これは同じリアル空間にいると人が感じるもので、オンラインでもそれがあると、一緒にいる感覚になるのだと思います。
例えば、リアルのオフィスに座っていたら、肩を叩かれて「今ちょっといいですか?」と言われるかもしれません。これはリアルタイムで返答しなければいけないから「緊張感」が生まれます。
逆に、チャットで「誰々さん」と言われても、この緊張感は薄いんです。
あと、oViceでは「誰がどこにいるか」が可視化されます。
すると「誰がどこにいるか」が常にわかり、いつでも声をかけられる安心感につながって、これも「存在感」になるのだと思います。
oViceのデータから「わかったこと」を教えてください。
ジョン:
oViceには「マジックナンバー」があることがわかっていて、それはoViceで5人以上が1時間以上話すと、ユーザーの定着率が高くなるんですね。
4人までは会話は割れませんが、5人いると会話が「2人と3人」に割れます。これがoViceがフィットする瞬間なんです。
向きをすこし変えるだけで、隣の人の声を聞きながらも、ほかの人と会話ができる。この瞬間が大体5人のときに起きるんですね。
オフィスで誰かに話しかけられる、誰かに話しかけにいく、これらの行動も5人くらいから、双方向のコミュニケーションになります。
なるほど。ユーザーに「マジックナンバー」まで到達してもらう工夫には、どんなものがありますか?
ジョン:
新しく使いはじめる企業さんには、そこを目標にオンボーディングします。そうなると「忘年会をやってもらう」のが一番効果的なんですよ。
oViceで「忘年会や飲み会」をやってもらえると、oViceの価値を体験してもらいやすくなって、その体験が定着率につながります。
朝会もそうです。いろんな部署が集まって、みんなで朝礼をやって、雑談してからお仕事をはじめる、これも同じです。
大人数で集まると、みんな突然はいなくなりません。何人かは残ってしゃべりはじめます。すると「5人以上で1時間」まで到達しやすいです。
oViceさんでは「屋外・交通広告」にかなり力を入れてプロモーションしていますが、結果はどうでしたか?
ジョン:
振り返るとうまくいったのかなと思います。こうした広告は「潜在意識」に影響して結果が出ることもあるので、効果測定は難しいですね。
ただ、結果としては伸びているので、正解だったと考えています。
どうして「屋外・交通広告」に注力するのでしょう?
ジョン:
際どいところに突っ込んできましたね、ここはポイントだと思います。
oViceというサービスは、市場が大きくならないと「我々も伸びない」という状態になっています。市場に限界値があるということです。
デジタル広告というのは、私が考えるに、穴があるところに埋めにいくものだと考えているんですね。ニーズがまだ残っているものを獲得しにいくのがデジタル広告なのかなと。
つまり、デジタル広告だけやっても一定の速度以上は伸びないわけですよ。そうなると、市場の拡大を早めるしかない。
市場を早めようと思ったら「みんなの意識」を変えるしかない。意識を変えようと思ったらマスに向けて、同時にメッセージを発信しないといけない。
そうなると屋外・交通広告なんです。マスといっても、会社員に見てほしいので、通勤でよく使われる路線や、オフィス街に出すようにしました。
なるほど。その人たちは「出社している人」ですしね。
ジョン:
そうですよね。その日に「出社しているから」と言って、テレワークに全くなっていないとも限りません。
テレワークと出社が混ざって「出社するの大変だな」という感じで、フラストレーションを抱えているかもしれない。
屋外・交通広告というのは、朝と夕方に2回みる可能性も高いので、文言にインパクトがあれば、無意識の印象にも残りやすいと思います。
oViceさんの「忘年会の広告」はSNSで話題になっていましたが、こちらは想像通りでしたか?
ジョン:
2021年の12月に出した「ぶっちゃけ大人数で忘年会したくない?」という、忘年会の広告は、SNSで撮られて広まるのは想像通りでした。
どうしてかというと、我々の統計では「忘年会したい人」が5割以上だったんですよね。でも、逆に「5割弱はしたくない」ということで、意見が二つに分かれていたからです。
なので、SNSでは「忘年会したくない人」が話題にする。でも、話題になったとしても、もう半分くらいの人には「刺さるよね」と考えました。
1万人が見たとして、半分は「反対して」話題にするかもしれません。でも、半分は「賛成して」それをいいと思ってくれるはずです。
SNSで話題になったことで、忘年会はメディアの取材にもつながりました。テレビなどで「新しい会食の形」として取り上げていただきました。
2022年1月の「猫を吸いながらしか仕事できません」という広告も話題になっていました。
ジョン:
オンラインとオフラインのいいところを、淡々と語っていこうという中で、ペットを飼っている方の働き方として「猫吸い」に着目しました。
こういう働き方が広がっているんだとなれば、自然にoViceが使われるようになります。なので「新しい働き方」をアピールしました。
こうした広告を出すと、あの「猫吸いのサービス」「忘年会のサービス」という肩書きが付くのも、良いところだと考えています。
最後にoViceの「おすすめ活用法」を教えてください。
ジョン:
oViceでは、採用がとても順調なんです。2021年の1月に10名だった会社が、いま1年くらいで150人まで増えていて。
これは、oViceという会社自体の、バーチャルオフィス空間があることで、会社の世界観や雰囲気が伝わったのが理由だと考えています。
ここでただ面接をするだけでも、通話やチャットよりも多くの情報量が伝わるようになるんですよ。例えば、ミーティングの様子が見えたり、あの人は楽しそうに話しているな、という声が聞こえたりする。
テレワークで「どの地域からでも働ける」という条件と、このバーチャルオフィスの組み合わせが、採用にプラスに働きました。
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【告知】oViceが気になった方は、14日間の「無料トライアル」もあるので、ぜひ試しに使ってみてくださいとのこと。もしご興味あればどうぞ。
【取材協力】
oVice株式会社:https://ovice.in/ja/about-us/
oVice:https://ovice.in/ja/
CEO ジョンさん:@saehyungjung
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