反対されても「ほしい機能」は実験すべき。キャリアSNSの「YOUTRUST」が語る3つの成長の転換点。社内の「モメンタム」を高めたら事業が急成長していった話。
YOUTRUSTさんを取材しました。
⸺「YOUTRUST」について教えてください。
岩崎:
YOUTRUSTは信頼でつながる「キャリアSNS」です。登録ユーザー数は25万人以上、利用企業数としては累計1,200社を超えています。
つながりのある人から「副業・転職のスカウト」が届いたり、カジュアルな仕事やビジネスの相談、社外とのつながりを作ることができます。
大事にしているのは「スカウト体験」です。YOUTRUSTでは、登録から7日以内に1通でもスカウトをもらった人は、翌月継続率が90%を超えます。
面白いのは「転職意欲」は関係ないんです。転職意欲のある人が「転職のスカウト」をもらったら継続するって当然ですよね。
でも「転職意欲がない人」も継続している。これって「良い話があれば転職を検討したい。」と誰しもが考えているってことだろうなと。
これは大きな気づきでした。気持ちよくスカウトをもらい続ける体験って、ユーザーさんにとってめちゃくちゃ嬉しいことなんだと。
逆に、スカウトが「月10通」を超えると返信率が下がります。転職サイトではないので、大量に届くとマイナスに働くのだと思います。
そこで「初期に1通はもらって、その後はコンスタントに月10通までもらう」といった状態を意識すると、継続率が伸びていきました。
⸺YOUTRUSTの成長①「転職意欲の公開機能」を発明した。
岩崎:
YOUTRUSTというサービスは「転職意欲の公開機能」からはじまりました。面倒な転職活動をこっそり進める方法として考えたものです。
これは「自分がほしい機能」でした。こっそり「わたし、転職考えてますよ」と社外に伝えて、誰かに誘ってもらいたかったんですね。
事前にこのアイディアを、人事やHR業界の先輩などに話してみると、「転職意欲なんて公開しないよ。なぜなら隠すものだから。」と言われました。
でも、実験のつもりで公開してみると、初日に約700人が登録してくれて、約3分の2のユーザーは「転職意欲」を表明していたんですよ。
また約12%が「積極的に検討中」と転職意欲マックスで公開していました。これを見て「全然いけるじゃん!」と思ったんです。
ここから言えるのは「まずは実験してみよう」だと思っていて。N1の意見を聞くのも大事だけど、こだわりがあるなら出して検証してみること。
どれだけ周りに「違う」と言われても、自分の感覚って自分だけのものではない可能性があるので、ユーザーにぶつけて検証してみよう。
またインタビューをするなら、顧客に近い人でも業界に詳しい人でもなく、実際の顧客に聞くべきなんだ、ということも学びました。
そこからタイムラインを実装して、投稿機能をつけるなどSNS的な方向性に進化していき、現在の「キャリアSNS」になっていきました。
初期のYOUTRUSTは「Facebook登録」を必須にしていました。外部のソーシャルグラフを活用して、マッチングや友達候補の精度を高めるためです。
データが蓄積されてくれば「友達候補」などを予測できるようになるため、途中からFacebook登録を必須にしなくても良くなりました。
⸺YOUTRUSTの成長②「副業の波」に乗って成長した。
岩崎:
YOUTRUSTの、初期の成長につながったのは「副業の波」にうまく乗って、一定のポジションを獲得できたことだと思います。
SNSで最も難しいのは「初期のコミュニティ」をどうつくるかなんですね。最初は「小さくて狭いコミュニティ」を占拠することが大事になります。
振り返ってみると、小さな市場ではなくて、大きな市場の「ニッチなジョブ」を狙ったのが良かったと解釈しています。具体的には「まともな副業を見つけたい」というキャリア市場のジョブです。
副業は比較的小さな市場です。そこに向かうと行き詰まるので「キャリア」という大きな市場へのエントリーポイントとして「副業」を捉えました。
実際に「副業」というワードを掲げた瞬間に、ユーザー数が伸びましたね。業界有名人の副業ができる「すごい副業」という企画も成功しました。
当時の副業って、本当かなと疑うような「あやしい仕事」も多かったので、まともな副業が探せる場所が求められていたんです。
話題性のある「すごい副業」を企画し、それをSNSの運用型広告に出すと、通常の広告と比べて1人あたりの獲得単価が1/2〜1/3になりました。
話題性のある企画をつくって、それをSNS広告を回すと効果的というのは、当時の大きな気づきでしたね。
⸺YOUTRUSTの成長③:「モメンタム」を高めたら成長した。
岩崎:
2022年頃に組織崩壊が起きて、組織も50人から38人に減って停滞期に突入してしまいました。そこから力を入れたのが「モメンタム」でした。
モメンタムというのは、「勢い」「進捗感」「できる!」という感覚のことで、「俺たちならやれる!」という内から湧き出る雰囲気のことです。
イメージ的には、スラムダンクの湘北のように「この試合勝てる!」という感覚を持って、「最後の1秒までシュートを狙うぞ」となっている状態。
そういうチームは、みんな「勝てる!」と信じていますよね。最後に「これもう無理だな…」と足が止まったら、勝てる試合も勝てなくなる。
それは弱い組織だなと。安西先生の「あきらめたらそこで試合終了ですよ。」という言葉も、モメンタムを上げるための言葉だと思うんですよ。
営業なら、31日ギリギリまで粘る組織と、30日に「今月は無理だ」と諦める組織では全然違います。
短期的には負けたとしても、翌月に持ち越したものに「1.01」みたいな係数が掛かり続けるので、複利でたどり着ける場所も変わってきます。
例えば、弊社には「モメンタム局」という、モメンタムのとくに高いメンバーが集まった部署(兼務)があって、社内のモメンタムを高めています。
役割は「空気清浄機」に近いです。人間が増えると、いつの間にか「悪い空気」が溜まりやすいので、換気して「いい空気に変える」必要がある。
モメンタムの高さは意外とわかります。オフィスでメンバーと目が合うか、元気に挨拶しているか、とかはわかりやすいです。
銀行の融資審査でも、銀行の方ってオフィスに行くことが多いそうですが、そういうところまで見て判断するらしいんですよ。
なので、わたしたちは「モメンタム」と表現していますが、昔からある言葉で言うなら「社内の風通し」なのかもしれません。
リクルートさんやサイバーエージェントさんのような偉大な会社にも、強烈なカルチャーがあるし、空気を極力濁らせない仕掛けがあるなと。
モメンタムが高い状態になると、「わからないけど、やろう!」となるので、意思決定が速くなって、物事が進むスピードもめっちゃ速くなります。
意外と「それ意味あるんですか?」とか「本質的なんですか?」みたいな、ロジカルバトルが足を引っ張っていることって多いと思います。
不可逆な決定なら「ロジカル」が超重要です。でも、ネットサービスって「試してみて、やり直せば良い」という意志決定ばかり。
例えば、経済産業省主催の「日本スタートアップ大賞2024」で、弊社が「審査委員会特別賞」をいただいたときに、授賞式で岸田総理に"はっぴ"を着てもらうことができたんですよね。
この写真はメディアでも取り上げていただき、YOUTRUSTの認知度向上などにつながりました。これも「モメンタムの力」だと思っていて。
実は、事前に経産省の方から「映えるものないですかね?」と相談が来て、「それなら、はっぴとか着ていく…?」みたいな感じになって。
それで、一応総理の分も用意して、当日雰囲気を見ながら「もしよければ!」とお願いしてみたところ、はっぴを着ていただけたんですよ。
ある種「ダメ元」で行動したこと。また経産省の方が相談してくれたのも「ユートラならやってくれそうだ!」と思ってくださったから、というのもあるのかなと。これってモメンタムの力ですよね。
⸺プロダクトの運営で「意識していること」を教えてください。
金子:
YOUTRUSTの体験は、「B側の体験」と「C側の体験」と2つの軸に分けて、楽しい体験(Fun)を最大化することを意識しています。
YOUTRUSTの体験って、企業側のクライアントが「個人ユーザーの体験」に影響を与えることも、ひとつの特徴になっていて。
例えば、企業側から「スカウト」が送られてきて、そこから良いご縁につながったとしたら、個人ユーザーの体験はより良くなります。
逆に、セールスだけ頑張っても成長しません。SNSとして利用者がいるからこそ、クライアントさんも採用サービスを利用してくれるので。
このようにB側とC側が連動しているんです。なので、C側で盛り上がる車輪を回すこともあれば、Bを起点にCが盛り上がる車輪を回すこともある。
この「火種」をどこに置くかは常に意識します。B側が使って嬉しいのか、それが転じてCが喜ぶものなのか、Cの中で盛り上がるものなのか。
⸺これまでに「成功した施策」についてぜひ教えてください。
金子:
YOUTRUSTでは、お祭りのような「ユーザー巻き込み型」のマーケティングが上手くいっています。これは「双方向」で作っていくものです。
オフラインで生み出した「火種」を起点に、それがソーシャルで拡散されて盛り上がるというのが成功パターンになっています。
例えば、日経新聞に掲載した広告は正にそうです。ユーザーさんの体験談を広告にすることで、それが「火種」になってSNSで広がっていきました。
なので、火種としては「オフライン」からはじまりますが、最終的な接点として見ると「デジタルマーケティング」に近いんですよ。
実際に「二次拡散」からのほうが流入は多いです。例えば、広告に掲載した約20名の方が「日経新聞に載りました!」とSNSで拡散してくれます。
すると、周辺の人たちも「○○さんが載った!」「うちの会社が載ってた!」と拡散してくれる。YOUTRUSTを応援してくれる人も広めてくれる。
そして、僕らがまたその「喜びの声」「応援の声」を拡散する。このサイクルを回していくことでリーチが広まっていきます。
狙いとしては、YOUTRUSTの「認知未利用層を狙おう」と考えていました。「気になっているけど、まだ使ったことがない人」に登録してほしいと。
そのため、広告の内容も「YOUTRUSTを使って、どう人生が変わったか?」をメッセージに入れて、背中を押せるような広告にしました。
期間中に登録すると「Amazonギフト券がもらえる」というインセンティブも入れていたのですが、これもやって良かったです。
想定外だったのは、登録後の「翌月の継続率」が高かったことです。登録して終わりという人は想定よりずっと少なかったですね。
広告メッセージから、「自分もこんな使い方ができるかも」という期待感が生まれたことが、継続率の高さにつながったのかなと。
成果指標としては、基本は「MAUの成長」を目的にしていて、そのためにUU数をコストで割った「獲得コスト」を見ています。
このようなマーケティングでは、「どこに載せるか?」も大事にしています。掲載する場所によって「どんな印象を与えるか?」が変わるためです。
例えば、日経新聞に載ることって、権威性や信頼感につながると思います。渋谷や新宿のOOHに出すと、新しいサービスが出てきた感がありますよね。
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【取材協力】
株式会社YOUTRUST:https://youtrust.co.jp/
YOUTRUST:https://lp.youtrust.jp/
株式会社YOUTRUST 岩崎由夏さん、金子彰洋さん
【告知】YOUTRUSTさんでは、各職種にて採用中。マーケターやPMなどをとくに探しているそうです。ご興味あれば下記サイトからご覧ください。
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