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270万人が登録、月間5億円が取引される「Skeb」のクリエイターファースト戦略。SNSで広まる仕組みと、「やらないこと」を決めるとユーザー体験が変わる話。
コミッションサービスの「Skeb」さんを取材しました。
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Skeb(スケブ)について教えてください。
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なるがみ:
Skebはコミッションを行うサービスです。クライアントが有償でリクエスト(お題)を送って、イラストなどを製作すると報酬がもらえます。
2018年11月に公開して、総登録者数としては約270万人、クリエイター登録者数としては約14万人に到達しています。月間取引高は約5億円です。
クリエイター側は、ほぼ日本在住なのですが、クライアントは全体の約35%が海外の方になっています。(アメリカ、韓国、タイの順に多い)
個人開発としてはじめたサービスでしたが、開始から約2年後(2021年2月)に実業之日本社さん(出版社)に、10億円で買収されました。
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どうして海外比率がここまで伸びたのでしょう?
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なるがみ:
海外比率が伸びた理由は、海外でのVTuberブームですね。英語を話す「EN VTuber」も増えていたり、世界的にVTuberの人気が伸びています。
VTuberが人気になると、日本のクリエイターさんに「絵を描いてほしい」という人も増えるため、絵の需要がものすごく伸びるんですよ。
VTuberって日本が発祥の文化ですし「本場のクリエイターに頼みたい」と考える人が多いみたいですね。
実際に、Skebの取引高全体の約2%が、自分のVTuberの姿、VRアバター、オリジナルキャラを描いてもらう、「うちの子リクエスト」になっています。
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Skebはどのように広がっていったのでしょうか?
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なるがみ:
僕らは「ピラミッド構造」と呼んでいますが、Skebのようなサービスって「フォロワー数が多い方」から順番にはじめるんですよね。
例えば、フォロワー60万人の方がはじめると、それを見てフォロワー30万人の方がはじめてくれる、という感じです。
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では、なぜフォロワー数の多い方が、Skebに登録してくれるのかというと、Skebが圧倒的にクリエイターさんの権利を強くしているからです。
例えば、Skebではリテイクも打ち合わせもNGなので、ちょっと3日間空きができたときに、気軽にリクエストを受けて納品できます。
そのおかげもあって、岸田メル先生や朝凪先生のような、フォロワー数が数十万人いる、有名クリエイターさんが多数登録してくれています。
ほかのイラスト系のサービスって、基本はクライアント側が強いんですね。なので、Skebはクリエイターが強いサービスにしました。
Skebはとにかくクリエイターを甘やかします。締め切りを過ぎてもペナルティはないですし、返金にかかる事務手数料もSkebが負担します。
初期は「クリエイターの権利が強すぎて流行らない」「個人鑑賞のために何万円も出さない」と言われましたが、僕は流行ると考えてつくりましたね。
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Skebに組み込まれた「サービスを広める仕組み」があればぜひ知りたいです。
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なるがみ:
90%くらいの方は、新しいサービスを「優れているか」ではなく「周りの人がつかっているか」によって、利用するかどうかを判断します。
そこでSkebでは、クリエイターさんが「SkebのURL」をツイッターのプロフに載せると、手数料が安くなるキャンペーンを常時実施しています。
すると何が起こるか。ツイッターのプロフィールって「最大160文字」しか載せられないため、競合サービスなどよりも優先して「SkebのURL」を載せてくれるようになるんですね。
そして、自分の周りを見るとみんなプロフに「SkebのURL」を載せている。すると「流行ってるのかな?」と気になって、つかってくれるようになる。
この「みんながつかってる感」を出すために考えたのがこの施策でした。
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実際に、アクセス解析を見ても、流入はほぼツイッターになっているので、これは効果があったのかなと考えていますね。
ちなみに、これまでSkebはWeb広告には1円もつかったことがありません。これまで口コミを中心に270万人に登録してもらえたのは、こうした仕組みのおかげなんです。
Googleなどに広告費をバンバン払うなら、クリエイターさんに還元して広めてもらった方がいいですよね。ある意味では「形を変えた広告費」とも言えるのかもしれませんが。
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成功施策① 「ブースト機能で収益が成長」
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なるがみ:
Skebは、リクエストでの手数料収入と同じくらい、ブースト収入(納品後の投げ銭+メッセージ送信)で成立しているサービスです。
実際のブースト率は50%程度。イラストが届いたときに多くの人に「お礼を伝えたい!」と思ってもらえています。ブーストするとイラストに「金枠」がつくようにしてからは、とくにブースト収入が伸びましたね。
ブースト収入が大きいからこそ、リクエスト手数料の無料キャンペーンもバカスカ打てているので、これは経営的にもやってよかったです。
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成功施策② 「規約に要約を入れると炎上しない」
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なるがみ:
規約周りで良かったのは「利用規約の要約」です。これは海外の「500px」という写真投稿サイトのアイディアを参考にしました。
よく著作権の項目って炎上するんですよ。規約に「運営が投稿作品を自由につかえます」という文言は、どのサービスにも入っているものです。
なぜなら、それがないとサムネイルとしてつかったり、スクリーンショットに写り込むだけでもアウトになってしまうからです。
ただ、これが一般ユーザーに「自分の作品の著作権が盗まれる」と誤解されることで、本当にあらゆるサービスが燃えているんですね。
そうならないために、Skebでは規約を要約して、「作品はクリエイターのものですよ。この用途のための規約ですよ」という感じで伝えています。本当にそうするだけで、炎上しなくなるんですよ。
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Skebがやらないこと① 「メールでユーザー登録」
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なるがみ:
Skebでは、憧れの作家さんにリクエストできることに重きを置いているため、ツイッターのアカウントがないと登録できないようにしています。現状ではメールアドレスでの登録はできないんですね。
そうすることで、ツイッターで「誰をフォローしているか」という情報を取得して、おすすめクリエイターやフォローしているクリエイターの新着情報を届ける仕組みがつくれています。
せっかく、SNSで何に興味があるのかわかる、タダで取得できるソーシャルグラフがあるのに、それをつかわないのはもったいないですよね。
メールアドレスでの会員登録だと、好みのクリエイターさんを探すところからはじまるため、マッチングの難易度が上がってしまいます。
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Skebがやらないこと② 「金額で検索させない」
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なるがみ:
Skebでは、金額でクリエイターを検索できないようにもしています。理由は「安いほど注目が集まるサービス」になってしまうからです。
もし金額で検索できると、クライアントは「目的の絵を安く手に入れたい」と考えるため、安い順にソートしてリクエストを送ります。
すると、クリエイターさんも安いほど注目されるので価格を下げますよね。趣味で500円くらいで出す人が続出して相場が落ちてしまいます。
すると、有名なクリエイターさんから「割に合わない」と抜けていきます。有名クリエイターさんがいなくなると、クライアントも減っていき、新規のクリエイターも減ります。長期で見ると誰の得にもなりません。
これで失敗しているクラウドソーシング関連のサービスって、本当にいくつもあるんですよ。価格検索の機能には慎重になるべきですね。
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Skebではどんなイラストの需要が高いですか?
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なるがみ:
Skebって特殊性癖のるつぼで、300人しかいないファンコミュニティでも、全員が1万円出すような、すっごく狭い集落が大量にあるんですよ。
例えば、石化という「女の子を石にする」というジャンルがあったり、特殊な絵を何千枚も頼んで、数千万円つかうユーザーの方もいます。
リクエストを見た方が「この性癖OKなら、自分も頼みたい」ということで、特定クラスターの方からリクエストがどんどん来たりもする。
つまり、フォロワー数が多ければリクエストがくるわけではなくて。実際にフォロワー300人くらいでトップ層に入る方もいるんですね。
世の中には「リクエストしないと生まれない絵」がたくさんある。僕もSkebではじめて知った特殊性癖がいっぱいありますね。笑
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なるがみさんが「新規事業をつくるとき」に、意識しているポイントを教えてください。
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なるがみ:
新規事業をつくるときには「予算の付け替え」を意識しますね。どの予算で買ってもらうのかは重要です。
なぜかというと、その人が「ジャンルA」としては払ってくれなくても、実は「ジャンルB」としてなら払ってくれる、ということがあるためです。
例えば、Skebとは別ですが、VRアバターの衣装を「リアルな服」として販売する、ポリゴンテーラーファブリックという事業があります。
これは、洋服を売るブランドなのですが、実はVRユーザーには「洋服」として売ってしまうと、買ってもらえないという調査結果が出ました。
【日本のVRSNSのユーザーに調査を行った結果】
・年齢は22歳、実家暮らしが6割、9割が男性 🚹
・年間の所得は200万円くらい 💴
・VRには年間30~50万円つかう(アバターの服、VR機材、オフ会など)🖥
・リアルの服にはお金をつかわない 👕
そこで、洋服として出すと売れないので、VRの予算で買えるように「人気VRアバターの衣装」を服にしたもの(グッズ)として販売したんですね。
すると、このブランドの服は2〜3万円するのですが、秒で売り切れるくらいの反響がありました。
このように、実際は「ジャンルB」の商品ではあるけど、Aの関連品として「Aの予算」で買ってもらうと、一気に売れることがあります。
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運営で「意識していること」などを教えてください。
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なるがみ:
クリエイターやクライアントから「どう思われたいか」をイメージして運営していますね。
クリエイターからは「こんなに甘やかしてもらえるのか。ありがたいサービスだな」という認識でいてもらいたいと考えています。
例えば、Skebには「おまかせ金額」という機能があります。
これは、統計情報からAIが「このクリエイターはこれくらいの金額ならリクエストが来るはず」という金額を、計算して表示する機能です。
表向きは「AIが勝手に価格を決めます」という機能ですが、ただ裏側では「おまかせ金額」をクリエイターは手動で書き換えることもできます。
すると、クリエイターさんが値上げしたときに、「すみません、AIが勝手に値上げしちゃって…」と運営のせいにして言い訳ができるんですね。
すると、クライアントさんは「運営のせいか、仕方ないか」となるんです。「運営は気に入らないが、信用はできる」と思ってもらえます。
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あと、Skebって「僕が1人で運営している」と勘違いしている人も多いんですよ。でもこれも、僕がそういう風に見せているからです。
ほかの社員はネットで表だって行動していないですし、募集要項としても「オタクじゃない人」(推しがいない人)を採用しています。
そうすると、良くも悪くも僕に批評が集まることになります。この構図を意図的につくっているんですよ。
なぜなら、ネットの炎上は「企業 vs 個人」の構図になると、絶対にみんな個人の味方をするから。企業がいつも悪者になるんですね。
でも、僕が運営していると思われれば「個人 vs 個人」になるので、何か批判があったときにも、反論や説明を聞いてもらうことができます。
中の人を見せるのは賛否ありますが、僕はやるべきだと考えています。こうした背景もあって、Skebはサービスとしては1度も炎上せずに済んでいます。
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【取材協力】
株式会社スケブ:https://skeb.jp/company
Skeb:https://skeb.jp/
なるがみさん:@nalgami
【告知】2023年6月に「ポリゴンテーラー」という、アバターのECプラットフォームを公開予定。ご興味ある方はぜひチェックしてほしいとのこと。最新情報はなるがみさんのツイッターよりどうぞ。
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※ 以降は、マニアックな事例を5つほどnote購読者向けにまとめています。10億円での買収時に評価されたポイント、初期からやっていた対競合戦略、サービスの収益に貢献した機能、などご興味あればご覧ください。
ここから先は
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